人生ゲーム新作は「億万長者を目指さない」。通貨は“幸福度”、実話がマスに
年末年始、家族や友人の団欒の場でお馴染みの人生ゲーム。今年は、少し変わった新作が登場した。ルールは、「億万長者」を目指さないというものだ。 【全画像をみる】人生ゲーム新作は「億万長者を目指さない」。通貨は“幸福度”、実話がマスに
円でもドルでもない「ウェルポ」を稼ぐ
あのルーレットと車型のコマはいつも通りだが、よく見ると使われる通貨が違う。 紙幣には、円でもドルでもない“ウェルポ”と呼ばれる単位が使われている。聞きなれない言葉だが、これはウェルビーイングポイントの略。つまり、お金ではなく幸福度を競い合うというのが大まかなルールだ。 ゲーム名は「100年人生ゲーム」。ゴールとなる100歳を迎えるまでに、1番ウェルポを貯めることができた人が勝利となる。 マスの文言を見てみよう。 「7年前から応援していたアイドルが、5000人の前でワンマンライブ。30000ウェルポ得る」 「外国籍の子どもたちに日本語を教えるのが生きがいに。ありがとう子どもたち! 40000ウェルポ得る」 「『弱い野球チームの応援はやめたら』というパートナーと喧嘩。結婚していれば30000ウェルポ失う」 「パートナーとの大切な約束を破り、3カ月口を聞いてもらえない。 1000ウェルポ失う」 などなど、確かにこれまでの人生ゲームの価値観とは異なるものが多いことが分かるだろう。 医師やサッカー選手などの職業カードも、健康マニア・オタク・家族思いなどの「価値観カード」に。それぞれにウェルポが割り振られており、マスによってその数倍のウェルポが増減する仕組みだ。 さらに、「幸せの記憶カード」というものも、100年人生ゲームの特徴の一つ。「中学校の図書館」「スキー検定」とタイトルとともに綴られている詩的な文は、まるでラジオのお便りコーナーを聴いているかのよう。体験会の参加者も「スイスの新婚旅行のエピソードにほっこりしながらも、若い頃のハワイの新婚旅行を思い出した」と話す。
なぜ幸福度を点数にしたのか
こうした新しいルールやアイテムの数々に、「現代の価値観を反映した人生ゲーム」であることはよく分かる。一方で「人の幸福度を点数化するなんて……」という疑問も出てくるのではないだろうか。 そのアンサーとして「あえて議論を生むように作られている」と答えてくれたのが、博報堂の100年生活研究所副所長の田中卓さん。「100年人生ゲーム」は、タカラトミーと100年生活研究所の共同開発によって生まれたものだ。マスの文言や「幸せの記憶カード」も、全て100年生活研究所の調査から聞き出した「誰かの記憶」をもとに作られている。登場するエピソードがあまりにも個人的すぎる理由はここにある。 だが、普遍的なマスばかりではないからこそ、時に「3000ウェルポは多くない?」「1000ウェルポ失うには大袈裟すぎるよ」と、お互いの価値観を知るきっかけにもなる。 こうした議論が生まれるのは、狙い通り。点数に腑に落ちない部分もあるだろうが、ある種勝ち負けよりもその過程で起こる会話を楽しむという見方もできそうだ。 体験会に参加した精神科勤務の人によれば、人生ゲームは医療や福祉の現場で使われることもあるという。 「通常の人生ゲームは、億万長者になったり、冒険に出てみたり、自分とは違うスリリングな人生を疑似体験できるという側面が患者さんも楽しいようです。一方で、『気分屋の友達に振り回されて損した』といった、誰にも起こりうることもマスもあるので共感しやすいゲームなのではないかと思います」 以前Business Insiderの取材にタカラトミーは「人生ゲームは『戦略性がほとんどないゲーム』」であると話していた。 「100年人生ゲーム」は、通常版以上に戦略性を感じさせない作りだ。たとえ1番になっても、現実世界でも幸せが人それぞれであるように、数値化された幸福度は100%納得できるものではないだろう。 だが、数字を競い合うというゲーム性は二の次に、まずは価値観の共有の場として遊んでみると、家族や友人の新たな一面を知るきっかけになるのではないだろうか。
荒幡温子