「5000万円の金ピカ仏壇」「1500万円でチーン」…。富裕層の「ずるい節税」を相続専門税理士が解説
● 最大6500万円の節税も 高級住宅地として知られる東京・田園調布。 父親の代から70年以上に渡って住んでいる75歳の女性は、夫が亡くなり今は一人暮らしだ。 「相続税が高く、家を売ってしまう人が増えて、この数十年で近所の顔ぶれは変わってしまいました。田園調布は敷地面積を一定以上に保つ決まりがあります。それでも、前は一軒しか建っていなかった土地に家が二軒建つことも珍しくありません。 私は、できれば子どもにこの家を相続して欲しいと思っていますが、難しいかもしれません」 土地は100坪弱あり、路線価で換算すれば約2億8000万円。預貯金数千万円を含めると、財産の額は3億数千万円になる模様だ。 女性には成人した息子が2人いる。長男は結婚して都内のマンションを購入し、次男は関西で結婚し家を建てた。 このまま女性が亡くなると、相続税は兄弟合わせて7000万円を超える可能性がある。 しかし生前贈与や生命保険への加入、そして長男が女性と同居して、相続時に土地の評価額を8割減額できる特例を利用し、家を相続。次男が預貯金を相続すれば最大で500万円程度まで相続税を減らすことが可能だ。 何も知らず、これといった対策もしなければ相続税は7000万円。事前の対策をとれば相続税は500万円。これでは、不公平とのそしりも出るだろう。 ● 「金持ち喧嘩せず」の実態 資産が10億円を超える富裕層は、より大きな対策をとっている。 世界には、シンガポールのように相続税のない国や、米国のように基礎控除(課税ライン)が10億円を超える国などがある。富裕層にとって日本の相続税率は世界一高い。 日本の相続税の税率は10%、15%、20%……と相続する財産が増えれば上がっていく累進制だ。財産の受け取り額が6億円を超えると最高税率の55%まで上がる。 仮に企業の創業者が50億円の財産を遺しても、2代目は相続税55%が課されて財産は22億5000万円、3代目も55%が課されて財産は10億1250万円、4代目も相続税が課されて財産は約4億6000万円と、4代経れば財産は10分の1以下まで減ってしまう。 「親の財産を貰えるのはタナボタであって、自力で稼いだものではありませんし、相続税には所得の再分配機能があります。このため、日本は再分配機能が効いているという見方もできます。しかし富裕層はそんなことを考えず、いかに財産を守っていくかに注力して様々な対策を講じるのです。 日本は、上場企業をはじめとして5代、10代と続いているオーナー企業の多い国と言われますが、相続税を額面通りに払っていてはオーナー企業は続きません。資産が10億円を超える人はほぼ対策をとっているし、1000万円以上の手数料をかけて財産を守ろうとする人も少なくありません」(富裕層の資産コンサルタント) ● 何はともあれ 「事前準備」を 国税庁によると、2022年に10億円以上の財産を遺したと申告した人は1189人に上る。この中には、100億円を超える遺産を遺した人が13人いる。 しかし節税策についてしっかりと準備を行っていた故人はここに含まれていない可能性が高い。 事前に対策をとれるか否かは、相続争いを回避できるか否かにも現れる。 「大金持ちの家族が故人の財産を巡ってドロ沼の相続争いを繰り広げるのはテレビドラマだけの話です。現実は、相続税の課税ラインを下回る、財産数千万円、またはもっと低く、数十万円を巡って家族が分裂することも多い印象です」(前出・ベテラン税理士) 実際、2023年の1年間で相続争いが裁判に持ち込まれたケースでは、遺産5億円以上は33件。これに対して遺産1000万円超~5000万円以下は3166件、遺産1000万円以下では2448件も相続争いが起きたのだ。 富裕層の数が少ないとはいえ、この差は、お金をかけても事前に相続対策を行ったか否かにある。 坂田拓也(さかた・たくや) 大分市出身。大学在学中に1992年「サンパウロ新聞」(サンパウロ)、卒業後1997年から2004年「財界展望」編集記者、2008年から2018年まで「週刊文春」記者、現在はフリーランスのライターとしてマネー、経済分野を中心に幅広く執筆を行う。著書に『国税OBだけが知っている失敗しない相続』(文春新書)、取材・構成『日本人の給料』(宝島社新書)などがある。
坂田拓也