「外国人のコントロールを嫌う日本人が陥れた」“カルロス・ゴーン事件”は日産自動車が仕掛けた陰謀だったのか
「これは陰謀に違いない」
「すべて日産の陰謀だ」 しかし彼の罪は明らかである。 長期間にわたってその事実が明るみに出なかったのは、彼と彼の取り巻き連中が巧妙に事を進めたからにほかならない。ゴーンはこう思ったのではないか。 「絶対にバレないはずだったのに、いったいどうして発覚したのか。私のような外国人にコントロールされるのを嫌う日本人、ルノーとのアライアンス(企業連合)の強化を恐れる日本人……。彼らが私を陥れるために、いろいろと根掘り葉掘り嗅ぎ回ったのだろう」 「そうだ、これは陰謀に違いない」 外国人や外国企業にコントロールされるのを嫌う日本人は、日産社内に限らず一定数いるだろう。ゴーン事件について内部告発をした人、内部調査にかかわった人たちの心中にその種の思惑がどれほどあったのか、社長の私さえあずかり知らぬところで始まった調査だから推測の域を出ないが、ゼロではなかったかもしれない。 しかし、内部調査と検察の捜査で露呈したゴーンの背任行為は「法に触れるとは知らなかった」といったレベルではなく、明らかな確信犯だった。発覚した不正行為の悪質さは彼らの想像をはるかに超えていたに違いない。 内部調査の結果を聞かされた時、私は耳を疑った。 当時のゴーンはアライアンス強化に向けて強引さを増していた。そんなゴーンに対して、日産社内で非難の声が高まっていたことも確かだった。とはいえ、ルノー・日産自動車・三菱自動車のアライアンスを率いていくにはまだまだゴーン会長のリーダーシップが必要だと私は思っていたのである。
一部で喧伝された「ゴーンと西川は対立関係にあった」は事実なのか?
しかし内部調査による数々の不正の証拠を見せられ、私はこう思った。 「不正行為があったのは明白な事実だ。これは動くしかない。とんでもないショック、混乱が起きるだろうが腹をくくってやるしかない」 覚悟を決めたのだった。ところがゴーンが逮捕された後、次のような見方が一部で喧伝された。 「ゴーンと西川は対立関係にあった」 そんなことは絶対にない。しかし、その言説はゴーンの主張する「日産の陰謀」説の裏づけにまんまと利用された。私に言わせれば、それこそ陰謀である。 ゴーンが日産の再建に乗り出した後、最初の何年かはパトリック・ペラタ氏をはじめ優れた側近が彼を支えていた。ゴーンに意見できる存在がいたのである。次第にゴーンが偉くなりすぎたのか、周りにはイエスマンが増えていった。 「日産よりゴーンさんが大事」 そう考える取り巻き連中が幅をきかせるようになったのだ。彼らはきっとこう騒ぎ立てたに違いない。 「サイカワはゴーンさんに反対している」