日高屋飲み、サイゼリヤ飲み……なんでもありの「チェーン居酒屋」から「絞り込み型」へのシフトの訳
養老乃瀧、村さ来、つぼ八、和民→鳥貴族、串カツ田中、サイゼリヤ……
昭和から平成中期ごろまでの時代の「飲み会」といえば、養老乃瀧、村さ来、つぼ八、天狗、白木屋、和民などなど……いわゆる〝チェーン居酒屋〟で開催されることが、サラリーマンも学生も多かった。 【画像】広末、吉高、新垣…ラーメン店や牛丼チェーン…街で見かけた有名人「意外な食事風景」 そのような居酒屋は、メニューも「なんでもあり」的に豊富で、広い座敷で大人数の大宴会、合コンなど、こういう場での経験をもつ世代も少なくないのではないだろうか。 時は移り、大人数での宴会や会食に制限をかけられたコロナ禍も経たいま、いや、コロナ禍よりも少し前から、このようなチェーン居酒屋で飲む機会は少なくなったという人は多いだろう。 飲む場はチェーン系居酒屋から「ガスト飲み」「王将飲み」「日高屋飲み」といった名称も生まれた、ファミレスや中華チェーンで手頃な価格帯で気軽に飲むスタイルが定着し、牛丼チェーンの吉野家も自ら「吉呑み」と銘打ち、店舗での飲酒を含めた食事を打ち出すようになった。 さらに、「鳥貴族」「串カツ田中」「サイゼリヤ」……中華、焼き鳥、串揚げ、イタリアンなど、いずれもお手頃価格で食の業態(ジャンル)が絞られたチェーンであることが多く、このようなチェーンでの、おひとりさまあるいは少人数で飲むといったスタイルは、気づけばすっかり定着している。 こういった、なんでもある系居酒屋からファミレスやジャンル絞り系飲食店でのカジュアル飲みに人気がシフトした理由はどこにあるのだろうか。 拓殖大学客員教授でマーケティングコンサルタントの西川りゅうじん氏に聞いてみた。 ◆背景にある「日本社会の3つの変化」 「チェーン店飲みの人気業態を転換させた理由として、日本社会の3つの変化があります」 と、西川氏は切り出す。西川氏が語る「日本社会の3つの変化」とは以下のようなものだ。 【1・年功序列・終身雇用の崩壊】 「同じ職場で一生つとめあげるという感覚がなくなるとともに、会社や役所とはひとつの家族のようなものであるという考え方もほぼなくなりました。 それゆえに、飲み会も家族での食事に近い感覚があるだけでなく、行かなかったら出世もできず、情報も入らない、女子社員や職員がお酒をついでまわり、先輩は後輩の面倒を見る一方で『俺たちのころは』といった話を聞かせる。そんなかつての飲み会はなくなった。 大学のサークルも同じような傾向はありましたが、大人数の大家族的感覚の崩壊とともに、宴会スペースや広い座敷のある居酒屋は役割を終えたといえるのではないでしょうか」(西川氏・以下同) 【2・ライフスタイルの多様化】 「会社や出世よりも、趣味など自分の時間、家族の時間を大事にしようという考え方が中心になりました。結婚という選択をしない人も増えました。 働き方も変化、多様化し、リモートワークなど働く場所や時間、休みの取り方もさまざまになり、社会は〝大衆〟から〝個衆〟へと変化し、るつぼの中でひとつに混じり合っていたようなところから、今はバラバラのものがモザイク上に配置されているような状態です。 年齢やライフスタイルもバラバラなところでお互いわかり合おうとしなくてもいい。要するに分断です。そこに、『失われた30年』の間に進んだ格差社会。そういった〝個衆〟でつくられた社会の中で、みんなで同じように宴会するという感覚はどんどんなくなっていったんです」