ジブリ最新作の約5倍、中国1兆円映画市場の隠れた金脈は日本発リメーク
スタジオジブリのアニメーション映画『君たちはどう生きるか』が、中国本土で4月3日から公開された。宮崎駿監督の最終作とされる同映画は中国での公開1週間の興行収入が約5.5億元(約110億円)と日本での収入を超えるほど好調で、改めて中国映画市場における日本アニメ人気を見せつけた格好だ。 【関連画像】中国での歴代輸入映画興行収入ランキング 実は今の中国の映画業界で「日本作品」としてはるかに熱い視線を注がれているのは実写作品のリメークだ。きっかけは2014年公開の日本映画『百円の恋(武正晴監督、安藤サクラ主演)』の中国リメーク作品『熱辣滾燙(以下は英語タイトル『YOLO』と表記)』が、年間最大の商戦期でもある今年の春節(旧正月)商戦を制したことだった。興行収入は公開から1週間で25億元(約500億円)を突破。1カ月で34億元(約680億円)を超え、歴代の興行収入ランキングでも14位に食い込んだ。 中国では昨年から外国映画のリメーク作品の公開が急増している。ただ、タイトルを含む内容はかなり改変されている上、公式にはリメークであることを表明しないことも多いため、中国国内ですらそうとは認知されていないのが実情だ。中国での外国映画は独特の難しさがある一方、ジブリ作品のみならず、23年公開のアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』や『すずめの戸締まり』のヒットなどを見ても、年間1兆円を超す巨大市場はエンタメコンテンツ輸出国を目指す日本にとっても大きなビジネスチャンスになりそうだ。リメーク作品であるYOLOのヒットは単なる偶然なのか。それとも、リスクを回避しつつ果実を得るための新しい一手になるのだろうか。 ●春節映画復調も半数脱落の異常 まずは、中国映画業界の現状を振り返ってみよう。庶民の娯楽の王様だった映画は、18年に起きた芸能人の脱税や不道徳行為への大規模な取り締まりキャンペーン、そして20年の新型コロナウイルス禍以降の大規模な外出制限により、一気に勢いを失った。例えば20年6月初旬までに1万2000社以上 の映画・テレビ関連企業が営業を停止したと報じられたほか、大手制作会社も軒並み厳しい経営状況に追い込まれた。そんな中、今年の春節期は総興行収入が80億元を突破して来場数とともに史上最高を記録し、ひとまずコロナ禍前の水準に戻ったと言っていいだろう。近年は、入場券の価格高騰が続いていたが、政策的な意向などで落ち着いたことも客足にポジティブな影響を与えたようだ。 前向きな報道が多かった半面、中国のSNSなどで話題になったのは公開作品の相次ぐ敗北宣言だ。春節連休後半では8作あったはずの公開作品のうち、大物俳優アンディ・ラウ主演の『紅毯先生』など4作品が予定より早い公開終了を発表した。昨年同期は予定より早い公開終了が1作品だけだったことを考えると異常事態と言える。 春節というめでたい時期の公開だけに、家族で見に行くことが多く、芸術性が高すぎて難解なもの、犯罪やサスペンスなどの暗くネガティブ、不吉なものはそぐわないといわれる。劇中劇の撮影というストーリーラインに沿って映画業界の体質を風刺した前述の『紅毯先生』、重病患者同士のラブストーリー『我們一起揺太陽』など明らかに春節向きではない作品は、公開が予告された時から業界内ではどう盛り上げるのかと注目されていた。しかし蓋を開けてみれば「奥の手」などは存在せず、両作品とも(作品への評価は高かったようだが)ある意味「順当」に敗退したと言える。制作陣はいずれもベテランで、こうした常識を知らないはずがない。なぜ順当に敗退したのか。業界関係者の話やいくつかの報道を組み合わせると、巨大市場が迎えた変化の兆しが見えてきた。 ●予定調和の破れ目から見える?チャンスとは 結論から言えば、ポストコロナ時代における観客ニーズの変化に対する業界の試行錯誤が可視化されたのが、今回の春節商戦だった。