「ジェイミーはエディーに負けたくなかったと思う」田中史朗が語る“南アフリカ撃破”の記憶…フミさんが提案した革命前のジグソーパズル
ジェイミー&ブラウニーとの再会
2016年からはヘッドコーチがジェイミー・ジョセフ、そしてアタックコーチが三洋電機時代にハーフ団を組んでいたトニー・ブラウンに代わった。 「三洋電機時代、ブラウニーと一緒にプレーするのは、スクラムハーフとして最高の体験でした。ブラウニーはコミュニケーション、ラグビーの理解力、判断力、どれをとっても超一流で、最初は怒られてばっかりでした。そのうち、僕の判断も良くなってきてチームも勝つじゃないですか。そうするとブラウニーがホメてくれるし、勝つと楽しくて。ブラウニーは、コーチとしても世界最高峰のひとりだと思います」 田中の感覚では、トニー・ブラウンのラグビーに対する「視座」は次の次、まわりよりも数フェイズ先を見越していたという。 「レベルが違いました。それに人間的にも尊敬できます。オールブラックス、スプリングボクスで長く活躍する人たちって、みんな人間的に素晴らしいです。あれはどうしてなんですかね」 そしてヘッドコーチのジェイミーも日本代表にフィットした。 「2019年のW杯が日本で行われるということもありましたし、それにジェイミーはほんまにエディーに負けたくなかったんだと思います。2015年以上のめちゃくちゃハードな練習をしましたし、みんなもそれについていって、準々決勝進出という結果を残すことができました」 2023年のW杯では、試合会場で田中に会った。「9番」ではなく、テレビの解説者としてフランスにいたからである。大会期間中、流大が負傷し、スクラムハーフが足りないのではないか、と報道陣の間で話題になった。「田中フミがいるじゃないか」と誰かが冗談で言ったのだが(登録されていないからもともと出場は叶わなかったが)、それはたしかにアリだなと思った記憶がある。
「堀江はお腹いっぱいと言ってましたが」
そして2024年が田中にとって、最後のシーズンとなった。 「三洋電機からパナソニックで一緒だった堀江(翔太)が最後の試合が終わって、『ラグビーはもうお腹いっぱいです』と言ってましたが、僕は最後の方は試合に出られませんでしたし、やりきったという感じはないんですけどね」 少しばかり後ろ髪を引かれているのかもしれない。それでも今後、様々な形でラグビーに携わっていくことだろう。 特に、若い世代でラグビーを志すならば、積極的にコミュニケーションを図り、ツールとして英語を学んで欲しいと話す。 「日本は年功序列というか、先輩、後輩の関係を重んじるので、どうしても年下の人間が意見を言うのを遠慮してしまう風潮がまだ強いと思います。でも、ラグビーの試合で遠慮してたらその間にやられてしまいます。ラグビーの練習もして、英語も身につければ、見える世界が断然違ってきます。やっぱり、意見を言い合える風通しのいい集団をつくることが大切です」 最後に、とある落語会で聞いた田中史朗のエピソードを紹介したい。 人間国宝だった柳家小三治が、2019年の秋に好んで話していたマクラがあった。 「パリのシャルル・ド・ゴール空港で、大きな荷物を持って難儀していたら、『持ちますよ』とにっこりして持ってくれた若者がいたんです。あれは、私が小三治だってことを知らなかったな。つまり、善意で持ってくれた。そしたらこの前のワールドカップ、荷物を持ってくれたその青年が出てたんです。『田中ーっ! 』って、毎試合テレビに向かって叫んでました」 そう、人間国宝がパリで遭遇したのは田中史朗その人だった。 どんな時も、躊躇しない。 善意を示そうとする時も、衝突が避けられない時も。 「フミさん」は、日本代表が経験した革命にあって、なくてはならない人物だった。
(「スポーツ・インテリジェンス原論」生島淳 = 文)
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