KO復帰の那須川天心が力に変えたメイウェザーショック
横浜FCの“キングカズ”こと三浦知良から「良かったね」と花束をもらい祝福を受けた。カズの息子さんが格闘技好きで天心の大ファン。その縁から食事に誘われた。 「ああいう人からの良かったねは重いですね」 交流もそうだが、メイウェザーとの一戦は、天心の知名度をお茶の間のキックボクシングを知らなかった人にまで広げた。 リングサイド席は7万円、一番安いスタンド席で5000円の会場は超満員だった。RISEの取材には初めてお邪魔したが、客層の若さと熱気に驚いた。大晦日の格闘界の話題を独占したメイウェザー戦では記録には残らないが、その心に傷跡を残す屈辱の“敗戦”を味わった。 だが、その“敗戦”を批判する声よりも格闘技では絶対不利の10キロ以上あった体重差や初めてのボクシングルールのハンデを乗り越え、50戦無敗のボクシング界で、最高のギャラを稼いできた男に挑んだ勇気がファンに評価された。それが、この日のフルハウスという答えだったのだろう。 「周りの応援が大きくてビックリした」 試合後、すぐにプレスルームに現れた天心は、傷ひとつない綺麗な顔をしていた。 「すかっとしたKOで終われてよかった。ほっとしている。思い通りに運べたし(試合を)コントロールできた。もっと早く倒せればというのが、ここからの課題」 メイウェザー戦の後、「怖いものは何もなくなった」と彼は言った。69日が過ぎ、あの試合は、彼の何をどう変えたのか? 「冷静に戦えるようになった。視野が広がった。もっといかなきゃいけない部分もあるが、3ラウンドでまとめられた。全局面に納得がいった。相手に技を出させて仕留める。勝ち方的には良かった」 天心の自己分析である。 ダメージはほとんどない。わずかに右の太ももあたりが赤くなっているくらい。 「まともにもらっていない。すぐに試合ができるかな」 打たせずに打つー。それもメイウェザー戦の教訓だった。 試合に臨むメンタル面にも変化があったという。 「リラックスできていた。緊張はしてない。かと言って油断でもない。いい緊張、いい覚悟で臨めた」 体重差とルールにがんじがらめにされキックを封じられたままボクシングの中量級の歴史を作ったパンチにさらされた天心は、俯瞰で自分を見るような境地を作ることができるようになった。まだ20歳である。不安視されたKO負けのダメージの影響もなかった。リング上で号泣した“メイウェザーショック”を天心は確かな力に変えていた。