KO復帰の那須川天心が力に変えたメイウェザーショック
キックボクシングのRISEワールドシリーズ2019の58キロ以下級トーナメントの1回戦4試合が東京・大田区総合体育館で行われ、那須川天心(20、TARGET/Cygames)がフェデリコ・ローマ(33、アルゼンチン)を3回1分35秒に“天心キック”と命名した変形の左ハイキックで倒しKO勝利した。天心は大晦日に「RIZIN.14」でボクシングの元世界5階級王者、フロイド・メイウェザー・ジュニア(42、米国)とのボクシングルールのエキシビションマッチで衝撃のKO負けを喫して以来の復帰リング。打たせず打つという理想的な試合展開で“メイウェザーショック”を振り払った。同大会の準決勝は7月21日に大阪で行われ、この日、壮絶な激戦を制したムエタイのルンピニーの認定王者、スアキム・PKセンチャイムエタイジム(23、タイ)と対戦する。決勝は9月16日に千葉の幕張メッセで行われる。
狙っていた「天心キック」で衝撃KO勝利
あの悪夢を振り払うのに少しだけ時間はかかった。 「トラウマというわけではないが、慎重になった。キックの試合は11月以来なかった。落ち着いてね。一発をもらったら嫌だなあと。そこで冷静に戦った」 天心を冷静にさせたのは“メイウェザーショック”である。 右のジャブから距離を測りながら強烈な左ストレートをブロックの上から何発もお見舞いした。跳び膝蹴りも随所で浴びせ、相手が下がると怒涛の攻撃を仕掛けた。だが、首をひっこめがっちりとガードを固めるローマの鉄のようなデイフェンスをそれ以上、強引に打ち破ることはしなかった。しかもローマは慣れないサウスポーである。 「格闘技が好きな人はわかると思うが、ああいった選手を倒すのは難しい。ガードが堅くてアグレッシブ。どう穴を開くか。前蹴りとか、(真正面からガードの間を狙う)ストレートとか、腹に入れたりしたが、なかなか開かなかった」 まるで巨石に小さなタガネをコツコツと打ち込みヒビを作っていくかのような天心の策略が始まる。ステップバックを使い、相手の攻撃を“誘い”ながら、空いたボディにレバーブローを叩きこみ、トリッキーな胴まわし回転蹴りまで見せて徐々にローマのペースを崩していく。 仕上げは最後の3ラウンド。あえて左のローを蹴らせ、それをつかむと同時にドンピシャの左のカウンターを浴びせ一度目のダウン。68戦63勝(31KO)4敗1分けの戦績を誇るアルゼンチン人は立ち上がってきたが、跳び蹴りから猛ラッシュ。ローマの右目上の出血がひどくなりドクターチェックの時間がとられたが、再開すると、大きな右のフックでよろめかせ、両足を大きく広げて腰を落として両手を角のようにして相手に向ける人気漫画「グラップラー刃牙」のトリケラトプス拳の余裕のポーズを見せた。 「色々と考えて、なんかやろうと思って。余裕を見せられた」 それがフィニッシュのサインだった。 右手をリング上に着きながら飛び上がっての左のハイキック。美しく残酷な半円を描く。 「相手のパンチが荒くなって広がったところにハイキック。ずっと練習してきたキックだった。練習は嘘をつかない」 自画自賛の狙いすました一撃は、ブラジリアン格闘技「カポエイラ」で見られる華麗な足技だが、試合後、自らが「天心キック」と命名した準備万全の秘密兵器だった。横向きにドサッと倒れたローマがうつ伏せになり、意識がないのを認めたレフェリーは、もうカウントを取らずに天心のKO勝利を宣告した。 「お久しぶりです。復活って形でいいKOで締めることができました」 天心は解き放たれたリング上で“復活”の2文字を使った。