クマ被害が過去最多を更新...専門家が語る「真の共存」への道
昨年はクマによる人的被害の件数が過去最多を更新。春を迎え、冬眠していたクマも目覚めるこの時期に、再び気を引き締めたい。そこで、今あらためて押さえたい「クマ対策」と、「クマが出ない街」を実現するための方策について、専門家に聞いた。(取材・構成:横山瑠美) 【写真】ツキノワグマ研究者が、クマの糞を洗ったら出てきた植物のタネ ※本稿は、『THE21』2024年5月号掲載記事より、内容を一部抜粋・編集したものです。
クマによる人的被害が昨年度過去最多を更新
街中などの「人の領域」にクマが出没し、人に危害を加える事案が増えています。2023年度には、クマに襲われた方が219名にものぼり、うち6名は亡くなられてしまいました(環境省発表「クマ類による人身被害について」より)。これは統計開始以来、過去最多の件数です。 これまで、クマに遭遇する場所と言えばその生息地である森や山、そしてせいぜいそこに隣接する農地、といったイメージがありました。しかし近年、餌となるものがない市街地にまでクマが出没し、被害を出すケースが増えています。 このような、市街地からそう遠くない場所で暮らし、ときどき市街地に出没するクマ、またはその可能性を持つクマのことを、私は「アーバン・ベア」と呼んで研究を続けてきました。 アーバン・ベアの側も、市街地に来たくて来るわけではありません。被害を防ぐには行政による対策が不可欠ですが、地域単位や個人単位で、クマが人の生活圏に入らないような対策を、日ごろからできる限りしておくことも重要です。
クマの侵入を防ぐには、誘因物除去や草刈りが有効
個人レベルでできる対策は、大きく分けて2つあります。1つ目は、クマを引きつけてしまう誘因物を除去していくことです。代表的な誘因物としては、柿や栗など街中の果樹や、生ゴミ、コンポスト、ペットフードなどが挙げられます。 特に効果がありそうなのは、果実を利用しなくなった道端や庭の果樹を伐採していくこと。何らかの理由で残すという場合、ついた実はすぐに収穫することを心がけてください。 意外なのは「コンポスト」でしょうか。近年人気の、生ゴミから堆肥を作るアイテムですが、クマにとっては生ゴミとほぼ変わりません。利用する際は「室内で使うタイプ」を利用していただければと思います。 また、もちろん畑や果樹園も誘因物の一つです。電気柵のような罠を周辺に設置して、クマの侵入を防ぐ必要があるでしょう。こうした点には、行政の補助も期待したいところです。 そして2つ目の対策は、人の生活圏とクマの住む奥山の森林とを分ける「ライン」を設けておくこと。下草や低木の生い茂る藪などが森や山沿いにあると、クマが「森の続き」と勘違いして、人の生活圏に入ってくる危険があります。これを防ぐために、草刈りや放置された林の伐採などを通じて森と街の間に見通しの良い場所を作り、クマに「ここは森じゃない」と気づいてもらうのです。 なお、こうした取り組みは、個々の住民の義務感や責任感頼みでは続かないもの。地域や町内会などで連携し、高齢者と学生が交流するイベントとして整備したり、もいだ実でジャムなどを作る行事にしたりと、エンタメ要素を盛り込んだ活動に落とし込むことが望ましいでしょう。 実際、ヒグマと隣り合わせの都市・札幌では、そのような活動が増えています。