頭痛に嘔吐、ふつうの風邪と似ているのに…小児科医が最も注意している、命に関わる「症状」と「病気」
クリニックの舞台裏でふだん医者たちは何を思い、どんなことを考えながら患者を診ているのか。『開業医の正体』(中公新書ラクレ)の著者で小児外科医の松永正訓医師が明かす、医療現場の実態と本音とは。 【一覧】なぜこんなに違いが?都道府県別「がんの死亡率・罹患率」ランキング
親にはわからない「子どもの重症度」
「どういうタイミングで受診したらいいですか」とよく聞かれる。これに答えるのはなかなか難しい。成人の医療では何も迷うことはないだろう。自分がしんどければ、自分の判断で医者のところへ行くだろう。だが子どもの場合、本人がどれだけつらいか親にはなかなか判断がつかない。 重症に見える場合はあまり悩まないだろう。少し判断に迷っても「子どもの救急」というウェブサイトがある。 気になる主症状を選び、あとは細かい症状をチェックボックスに入れて結果を見ると、「救急車で病院に行く」とか「自家用車で病院に行く」とか「待つ」とか教えてくれる。 夜間ならば、#8000という子ども医療電話相談事業がある。これを利用している人も多い。
脳と肺の異常がいちばん怖い
重症度のほかに、どこの臓器の問題かを考えるべきだろう。人間にとっても最重要の臓器は、脳と心臓と肺である。この三つに不具合が起きると命を持っていかれることがある。子どもはけっこうの頻度で胸の痛みを訴える。 でも小児の場合、心筋梗塞は極めて稀だから大人のように胸痛をそれほど心配しないでいい。子どもの胸痛の原因のほとんどは、Precordial Catch Syndromeという良性の病気だ。この疾患は痛みが長引くこともあるが、特に治療をしなくても自然軽快していく。すると残りは、脳と肺だ。 脳の異常とは、意識障害である。代表的なものは熱性けいれんである。だが実は熱性けいれんは怖い病気ではない。良性の病気である。しかし、熱性けいれんは時として、髄膜炎・脳症・脳炎と区別がつかない。これらはヤバい病気だ。そういう意味で熱性けいれんは緊急に受診が必要になる。 肺の病気で怖いのは、喘息の強い発作や肺炎である。耳を澄ましたとき、子どもの胸からゼーゼー・ゼロゼロ・ヒューヒューと音がしていたら一大事である。肩で息をしていたり、呼吸が早かったり、呼吸のたびに胸が凹んだり、鼻の穴が膨らんだりしたら、それは呼吸困難である。 発熱を怖がる保護者は多いが、発熱はウイルス感染に対する人間の防御反応で、実は悪いものではない。夜中にドカンと高熱が出ても、夜間に医療機関を受診する意味はほとんどない。だが、長引く熱は要注意である。熱は高くても怖くないが、長いときは怖い。