セブンが外資に買収されれば「買い物難民」が続出する…「9兆円対抗策」を経済界が固唾をのんで見守るワケ
■セブンが外資に買収されたらどうなる? 11月13日、セブン&アイ・ホールディングス(セブン)は、同社の創業家である伊藤家から法的な拘束力のない買収提案を受領したと発表した。創業家出身の伊藤順朗氏は、現在、同社の代表取締役副社長を務めている。経営陣が参加する買収=MBO(マネジメント・バイアウト)で、カナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタール社による買収を阻止したいというのが主な狙いとみられる。 【この記事の画像を見る】 コンビニやスーパーは重要な物流拠点であり、一般庶民にとってなくてはならない社会インフラの一つだ。その重要インフラが海外企業によって経営され、将来、効率性の観点から店舗数が大きく減らされることになると、私たちの生活にもマイナスの影響が出ることが懸念される。その必要不可欠な社会インフラを、セブン経営陣は日本企業として提供し続ける意志を示したと言えるかもしれない。 ■日本企業、金融機関、買収仲介業者も注目 ただ、今回、創業家から提案されたMBOが、うまく実行できるかは不透明な部分がある。MBO規模は出資と銀行融資を合わせ、9兆円に達するといわれている。金額が大きくなるため、出資する企業や融資を依頼される金融機関はかなり慎重な対応になるだろう。また、コンビニ業界の寡占化などの問題もありそうだ。公正取引委員会がMBOに待ったをかける可能性もある。 今後、MBO提案がどう進むかは、わが国企業のM&A戦略にかなりの影響を与えることも想定される。米国では、トランプ大統領が規制緩和を進めるとみられ、企業の買収が増えるとの観測が浮上しているようだ。内外問わず、買収案件は増えるだろう。今回の事例は、わが国の企業、金融機関、買収の仲介などを行う企業にとって重要な参考事例になるはずだ。
■買収提案に“ノー”を示した創業家 セブン創業家によるMBO提案の主な狙いは、カナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタールによる買収を阻止する事だろう。 今年8月、クシュタールはセブンを5.7兆円程度で買収する友好的な提案を行った。それに対して、セブンは自力での成長を目指す方針を掲げた。10月末、世界30兆円規模の売上高を目指すと発表した。海外企業の傘下には入りたくない。セブンの創業家は、あくまでも日本の企業として消費者に安心できる買い物環境を提供し続けることを目指して、今回のMBO提案を行ったのだろう。 報道によると、MBOの実現に向けて創業家の資産を管理する伊藤興業(伊藤家)と、伊藤忠商事が3兆円程度を出資する方針といわれている。11月15日時点で、伊藤興業の保有比率は約8.1%で、セブンの筆頭株主である。大手メガバンク3行は6兆円程度を融資し、合計9兆円規模でセブンの発行済の全株式を買い取り非上場化する。9兆円規模の買収金額は、クシュタールが引き上げた買収金額(7兆円程度)を上回った。 ■実現すれば歴史上最大の巨額買収か わが国企業による買収の歴史を振り返ると、9兆円という巨額案件は見当たらない。これまで、日本企業のM&A(合併と買収)で最大規模は、武田薬品工業によるアイルランドの製薬大手シャイアーの買収(7兆円規模)だった。経営陣が参加した買収(MBO)に関しては、2024年に成立した大正製薬ホールディングス(約7000億円)が今のところの最大だ。 セブンは、大手の金融機関などとM&Aのアドバイザリー契約を結び、法律面のリスク対応のためリーガル・アドバイザーを選定したという。現在、セブンは大手金融機関、総合商社などわが国の主要企業の協力をとりつけ、9兆円規模のMBOの実現に準備を進めているとみられる。 海外企業にセブンが買収されると、リストラによって店舗が閉鎖され買い物難民が増えるリスクが高まることも懸念される。セブンは海外企業による買収を阻止し、国民の日常生活を支える小売業の社会的責任を十分に果たす目的もあり、MBOという選択肢を本格的に検討している。