家族旅行中、空港で「スーツケースを弁償しろ」と難癖をつける夫。「カスハラ」を繰り返す夫を見て妻の頭に浮かんだのは...
夫が航空会社のマイレージサービスに夢中になり、困惑する妻の佐和子さん。夫の武志さんは、搭乗実績を積むための「マイル修業中」で、生活全般をマイル加算のために家族に不便を強いてきます。 しかし恩恵を家族に分けることもなく独り占め、クレジットカードのステイタスにも固執するようになり、さまざまなカードの年会費が膨れ上がっていました。 生活費をマイルで支給、教育費も最低限にしたがる様子に納得がいかない佐和子さん。そして夫婦の間に決定的に亀裂が入る「事件」が起こります。 取材者プロフィール 佐和子さん(仮名):40歳、派遣社員、お子さんは小学生ふたり。 武志さん(仮名): 42歳、美容クリニックに勤める皮膚科のドクター。
マイルに縛られすぎて、針のムシロの家族旅行
「ビジネスクラスに乗れるくらいマイルが貯まったから、ハワイに行こう! と言われたとき、ひっくり返るほど驚きました。子どもが生まれてから、家族旅行は金額もかさむからと近距離旅行ばかり。それがハワイ! この時ばかりは夫のマイルハック術に感謝したんですが……」 なんと、ビジネスクラスは武志さんだけ。佐和子さんとお子さんふたりはエコノミーでした。 ビジネスクラス分のマイルを分け合えば、旅行全体の予算は下げられるのに、そこは譲らない武志さん。「まあ、ハワイに行けるだけいいか……」と、ワンオペエコノミークラス移動でも楽しみにしていた佐和子さん。 ところが旅の当日、佐和子さんはとんでもないシーンを目撃することになります。
上級会員証=印籠!?
「夫は、何日も前から航空会社のウェブサイトでビジネスクラスのメニューをチェックし、あれを食べようこれを飲もうとウキウキしていました。こっちはエコノミーですから面白くはありませんが、まあ、そんなに楽しいならよかったね、って。 ところが事前座席指定では、一番座りたかった席が埋まっていたらしく、ずっとぷんぷんしていました。そして待ちに待った楽しい旅の当日、空港に着くなり急にクレームモードでカウンターで交渉し始めました。『すでにほかの方がチェックインされている席なので』とスタッフが断ると、マイレージ会員のタグをちらつかせ、それならば何か代わりのメリットを供与しろというのです。 はっきり言って、顔から火が出るほど恥ずかしかったです。希望の座席に座れないと言っても、マイレージの特典利用なわけで、運賃を払っているお客さんのほうが航空会社にとってはメリットがあるはず。優先されるのは当然です。でも夫は、上級会員はどんな時も優遇されるべきだし、そもそも自分はアップグレードされるべきとスタッフに迫っていました。その横柄で偉そうな態度を見て、すごく恥ずかしかったです」 しばしば、普段は大人しいパートナーが、接客業の人に対して態度が悪すぎて幻滅した、という話を耳にします。客という強い立場を得て、スタッフに無理な要求をして、下に見るような態度をとるのは品がないと思われても仕方がないでしょう。 武志さんが航空会社のカウンターで見せた態度は、まるで人が変わったかのような威張りぶりだったそうで、お子さんたちも楽しい気持ちが一気にしぼみ、ショックを受けていたといいます。 奮闘むなしく、席の変更は認められなかった武志さん。結局ビジネスクラスのラウンジには自分だけ入り、そのままハワイに到着するまで会うことはありませんでした。家族旅行でそのような自己中心的な行動は、はたで聞いている以上に、当事者の妻には堪えるものでした。 接客業従事者にはどんなに威張ってもいいという、夫の人間性が出てしまったと感じた佐和子さん。旅行中は言葉少なになりながらも子どもの手前、笑顔をキープして、到着後武志さんと合流、ホテルに移動したそうです。 「気持ちのいい朝のハワイで、夢のように素敵なホテルのロビーにつくなり、夫は再びアーリーチェックインがサービスされないと聞いて激怒。部屋がツインからアップグレードされていないことにも顔を赤くして怒っていました。でもそれはあくまでサービスですし、そんなに怒るならお金払ってお部屋を押さえないと……。なんというか、優遇されて当然、自分だけがメリットを享受できれば他人はお構いなし、みたいな姿勢に改めて驚きました。 思えば結婚生活、私もずっとこんなふうになめられてきたんだなって。こいつには何を言ってもいい、どうせお金を稼げないんだから口を出すな。そんな夫の声が聞こえるようで、それまで必死に意識の下に沈めてきた蔑ろにされた記憶が、ぶわーっと溢れてきたんです」
写真/Shutterstock 取材・文/佐野倫子 構成/山本理沙
佐野 倫子