俳優・田中道子さん 1級建築士試験に一発合格 二兎も三兎も追って描く建築への夢
テレビに、映画に、舞台にと活躍する俳優田中道子さん(35)は2023年秋、芸能人の隠れた才能を専門家が査定するテレビのバラエティー番組「プレバト!!」(MBS系)の水彩画で「名人10段」昇格を果たしました。2022年の暮れには、合格率が例年10%に満たないほどの1級建築士試験に「一発合格」しました。二兎(にと)も三兎も追う欲張りな田中さんに、その奮闘の一端と、建築へのこだわりや夢を聞きました。(聞き手・大牟田透) 【フォトギャラ】生き生きした表情でインタビューに応じる田中道子さん
震災の「住のピンチ」に立ち上がる姿に憧れて
――1級建築士試験の受験生は、大多数が設計事務所などで数年の実務経験を積んだ人たち。「一発合格」となると「100人に1人」とも言われます。そのモチベーションはどこから出てきたのですか。 私は、家から通えた静岡文化芸術大学の空間造形学科(浜松市)を卒業しています。もともとゲームクリエーターになりたくて、ゲームとか仮想世界のデザインだと思って選んだら建築でした。受験もデッサンだったので気づかず、入学してからぶったまげました。周りは建築好きばかりで、落ちこぼれでした。 転機は、ミスユニバースを受けていた3年生のときでした。東日本大震災が起きて、ミスユニバースの同期と一緒に炊きだしの手伝いなどで宮城県女川町へ行きました。そこで、衣食住の住の部分でピンチの人の下に駆けつけて救える建築士って本当にヒーローに見えて、あっ、それって私が今勉強している都市計画や都市開発じゃんと改めて認識したんです。 それで、いつか建築士になろうと卒業直後に2級建築士を取得しました。先日、東北へ行って、あのとき本当に復興できるのだろうかと思った町がこんなにきれいになっていると、たくさんの建築士も携わった仕事に感動しました。 ミスユニバースで日本代表になれず不完全燃焼感があったので、大学卒業後、ミスワールドをめざしました。今しかない、挑戦しないと後悔すると思って。一方で将来街づくりなどに携わるために、一段落したら設計事務所に就職するつもりでいました。建築士は定年も関係なくできる一生ものの仕事ですし。ミスワールドで出会った人たちも、普段は医師で「ミスワールドになったら医療資源の不足をアピールして社会貢献したい」というように、プロフェッショナルとしての自分を持っている人が多くて、それにも影響されました。 ――なるほど。そうすると建築士はずっと頭にあったわけですね。 はい。24歳でタレント事務所に入ってすぐに「1級の資格を取りたいので実務に行かせてください」と言って、「女優としての土台を作る方が先だろう!」と怒られましたが、いつかはと虎視眈々(こしたんたん)と狙っていました。 2020年に制度が変わって、実務経験がなくても1級を受験できることになりました。ちょうど、コロナ禍で少し時間に余裕ができていて、そんな時期が続くかも知れないと思ったこともあって「本業でベストを尽くしていないということは絶対ないようにしますから、やらせてください」と力説して、応援してもらえることになりました。 自分で自分を追い込んでいたわけですが、苦痛ではなかったですね。ずっとやりたいと思ってたことができるようになって、もやもやが晴れて自分の中で改めてエンジンがかかったというか。今考えると、絵を描く番組で結果が良かったり、セリフの覚えが早かったりして、すごくやりがいのある日々でした。 その結果、学科試験は2022年7月、2次の実技試験はその年の10月に受けて12月末に合格が発表されました。