一挙手一投足に注目、人の機微を熟知した作家ならではの芝居 「なにげに文士劇2024」
作家や画家、編集者、書店員ら16人の「文士」たちが舞台に立ち、発声し、踊り、駆けまわる-。専門俳優以外の文人が演じる「文士劇」は、いわば素人芝居。だからこそ、11月16日に大阪市内で行われた「なにげに文士劇2024旗揚げ公演 放課後」は、文士たちの一挙手一投足に目が離せず、終始耳を傾け、全集中してしまう不思議な魅力に満ちていた。 ■圧巻の3時間 演目「放課後」は、東野圭吾原作の、高校で起きた殺人事件を巡る学園ミステリー。公演は3時間に及び、関西、九州在住の人気作家らが、教師や高校生にふんしてジャージーやセーラー服を身に着けた姿は、圧巻というほかない。 キーンコーンカーンコーン。チャイム音とともに登場したのは、初舞台にして主役を張った数学教師、前島役の東山彰良だ。校内の更衣室で起きた密室殺人の第一発見者という重要な役柄で、そのせりふ量は膨大。聞けば、多忙な作家活動の合間を縫って福岡から大阪に滞在して稽古に集中したそう。本番で見せた安定感のある演技に見守る観客はホッとする。これも文士劇の醍醐味だろう。 女子高生にモテモテの役柄で、長身で手足の長いルックスは舞台上でよく映えた。そんな東山に、恋愛小説から古典作品までを手掛ける大ベテランの高樹のぶ子が、女生徒にふんして言い寄る。 門井慶喜は理路整然と事情聴取を進める刑事役がピタリとはまった。教師を翻弄したり、バイクを乗り回したりと多彩な演技で、校内一の問題児を演じた湊かなえ。英語教師役の玉岡かおるは滑舌のいい発声で舞台を引き締め、生徒指導部長役の黒川博行は、終始大阪弁のせりふで笑いを誘った。人間の機微を熟知した作家ならではの風格が舞台上で垣間見えるのも、文士劇の妙味だろう。 歴史をひもとくと、文士劇は明治23年、東京で作家の尾崎紅葉らが演じたのが始まりとされる。昭和期には文芸春秋社の主催で上演され、小林秀雄や三島由紀夫、石原慎太郎、野坂昭如らも舞台に立ったという。 大阪では画家らが中心となって昭和33年まで続いた。今回、朝井まかて、澤田瞳子らの尽力で66年ぶりに大阪の地に文士劇が舞い降りた。唯一無二の演劇が未来に引き継がれていくことを願ってやまない。(文・横山由紀子、写真・泰道光司)
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