アイアンマンはなぜ死んだのか?脚本家チームが「崇高な死」で見せたかったこと
「あのシークエンスのほとんどは、2018年の10月、アトランタで3班体制で撮られたんです。連日狂ったようにモーション・キャプチャーの撮影をした、嵐のような1ヵ月でした。 主要撮影期間に撮影をしなかった理由の1つは、この映画も『インフィニティ・ウォー』も進化を続けていたからです。両作品は関連し合い、互いに影響を与え合うわけですが、同じ事を繰り返したくはないし、同じリズムに陥りたくもありませんでした。そしてなにしろ最後の決戦が唯一無二の見せ場になるように気を遣いました」 ● マイティ・ソーのハンマーの 設定は矛盾しているけどいいの? 完結2部作の物語は流動的であり続けた。マーカスとマクフィーリーは、MCUの他の映画に反応するかのように脚本を書き直し続けた。 2016年にオーストラリアで撮影された『マイティ・ソー バトルロイヤル』で、タイカ・ワイティティ監督と主演のクリス・ヘムズワースはソーという雷神のキャラクターを、自己中心的だが高潔なおバカというキャラにイメージ・チェンジした。 折角作ったソーの新しいイメージが、アベンジャーズに合流したときになかったことにされないかとヘムズワースが心配したので、マーカスとマクフィーリーはソーの出番を書き直し、つっこみ担当の真面目なソーはボケ担当になった。 ただし、ほんの数か所ではあるものの、『バトルロイヤル』の展開は『エンドゲーム』のプロット構築に矛盾を引き起こしてしまった。
キャプテン・アメリカがソーのムジョルニアを持ち上げられるかどうかは『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』以来観客をやきもきさせてきた宿題だったが、ついに『エンドゲーム』でキャップはムジョルニアを持ち上げ、相応しい男であることが証明される事になっていた。そこに矛盾が生じてしまった。 あの血沸き肉躍る最終決戦の白眉とも言うべき場面は、2015年に脚本家チームによって提案されて以来一度も捨てられず残っていた。クリストファー・マクフィーリーが言う。 「その問題にどう対処すべきかと話し合いになったときがありました。『バトルロイヤル』で、ソーはハンマーを持たずに稲妻を召喚できることになってしまいましたから。『ハンマーは関係なかったのだ』というオーディンの台詞すらあったと思います。でも『エンドゲーム』ではキャップがハンマーを手に稲妻を召喚することになっている。しかしこういった問題に直面してしまっても『やめるにはかっこよすぎるだろ?後で考えようぜ』と思っていますが」 ● マーベルの壮大な世界観は 即興アプローチから作り出された そんな即興アプローチこそが、MCUという宇宙の特徴だった。『ドクター・ストレンジ』(2016)の脚本家C・ロバート・カージルは、こう言っている。