『宇宙よりも遠い場所』はいしづかあつこ監督の才能耀く傑作だ 高校生の選択が問うもの
いしづかあつこ監督は心情描写もアクションも一級品
いしづかあつこ監督についても触れておこう。学生時代からアニメーション作家として注目されていたが、アーティスティックな作品ではなく商業作品を作りたいと、老舗アニメ製作会社のマッドハウスに入社。日本の文学作品をアニメにする「青い文学」シリーズ」の『蜘蛛の糸』と『地獄変』という芥川龍之介原作の2作品や、海外ドラマを日本でOVAにした『SUPERNATURAL: THE ANIMATION』の監督を経て、『さくら荘のペットな彼女』でTVシリーズの監督を務める。 この頃はまだ、キャラクターの心情を表情や仕草に乗せて丁寧に描くことが持ち味の監督だったが、劇場版『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』で世界を変えたいと願う少年の苦闘を描いたドラマで涙を誘いつつ、ド迫力のバトルシーンで目を奪った。そして迎えた『宇宙よりも遠い場所』では、少女たちの心情が豊かすぎる表情に表れ、コミカルさも混じったアクションとしても描かれていて楽しませてくれた。「歌舞伎町フリーマントル」で繰り広げられる歌舞伎町での追跡劇は、よくもそこまで動かすものだと驚けるだろう。 それは、目下の最新作である映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』にも受け継がれている。キマリたちと同じように冒険に出る3人の少年たちを描いた作品で、南極行きほどの壮大さはないものの、深い森の中を動き回る中で、3人の少年たちがそれぞれに抱えている悩みのようなものが浮かび上がってくる。ラストに登場するアイスランドの風景は、キマリや報瀬や日向や結月が南極で観たオーロラにも負けない壮大さで、南極ともども行ってみたいと思わせてくれる。『宇宙よりも遠い場所』が気になった人なら、観て損はない作品だ。
タニグチリウイチ