プリウス「スーパーカー化大作戦」は成功? ハイブリッド車に逆襲の兆し
「そうですね、みなさんに多く乗っていただいています。走りだけでなくデザインもすごく良いと言っていただいているので、まずは我々が伝えたかったことは伝わったのかなと。手応えは感じています」(大矢氏) 特に、個人的に気になっていたフロントピラーの低さについても、「その見た目から、乗る前に『狭い』とおっしゃる方は多かった。ただ実際に乗ってみると意外と広く感じた方も多かったんです」(大矢氏)という。 というのも5代目プリウスは、ルーフを下げつつ同時にフロア高も3cmダウンさせて車内空間を確保しているのだ。特にリアシートについては、燃料タンクと電池パックの位置を入れ替えてまで低さを追求している。結果、足回りのサスペンションのストロークが短くなり、硬めの乗り心地になったかと思いきや、実際にはしっかり目ではあるが、ちゃんと道路から受けるショックを吸収してくれる。 なによりも驚くべきは、国内販売数だ。24年初頭に日本自動車販売協会連合会(自販連)が発表したデータによると、23年通年の登録車販売実績1位はヤリス(19万台)、2位がカローラ(15万台)、3位がシエンタ(13万台)。プリウスは6位(10万台弱)で、一見たいしたことがないように映るが、そうではない。 数字をひもとくと、ヤリスは実はハッチバックとSUVのヤリスクロスを合算したものであり、ガソリン車が半分近い。カローラもセダン、ハッチバックのスポーツ、ワゴンのツーリング、SUVのクロス、ハイパワーなGRカローラの5タイプを合算したもので、ガソリン車も多い。 登録車販売数の内訳から、単一ボディーだけで比べてみると、1位がシエンタ、2位が日産ノート、3位がトヨタルーミー、そして4位がプリウスということになる。この中で、純粋なハイブリッド車専用モデルはノートとプリウスのみ。どちらも年間販売台数は、ほぼ10万台。 つまり23年に国内で最も売れたトヨタの単一ボディーのハイブリッド車はプリウスということになる。あのスーパーカーのようなスタイルに振り切ったデザインにもかかわらず、この実績はすごいと個人的には思うのだ。 中嶋氏は、プリウスを5代目でタクシー化するという案が豊田章男氏から出たときに、ほぼ反射的に新型プリウスを超スタイリッシュ化する案を思いついた。チーフデザイナーのサイモン・ハンフリーズ氏と考えたプランを、後日豊田章男氏に見せて、「これだったら君たちの意見も理解できなくはないね」と言わせ、企画を通したという。 「あのときは、プリウスをこれで終わらせていいのかと夢中でした。新型プリウスでは、次の世代のハイブリッドの1つの方向性を示したいなと。本当に成功するかは分かりませんでしたけど(笑)」。中嶋氏がこう言っていたように、確かにチャレンジだったが、結果は今のところうまくいったと言えよう。 ●バッテリー電気自動車だけが成長してるわけではない なによりも見逃せないのは、ここに来てハイブリッド車に追い風が吹き始めていることだ。一部報道であったように、世界的に見れば23年は確かにバッテリー電気自動車の販売は世界的に伸びているものの、実はハイブリッド車も販売がそれ以上に伸びている。 しかも、その現象は日本だけではない。欧米や中国のほか、主要14の国・地域についていえば、ハイブリッド車の販売台数は前年比で約30%増。これに対してバッテリー電気自動車は28%。その差はわずかでマーケットごとに微妙に状況は変わるとはいえ、言われているほど世の中はバッテリー電気自動車一辺倒の流れではないのだ。トヨタ自動車も、ハイブリッド車の世界販売台数が過去最高を更新したことを明らかにしている。 今後自動車業界が、低炭素化を実現するエコロジーカーへとシフトするのは間違いないところ。だがバッテリー電気自動車には、バッテリー製造に必要なレアアースをどう確保し、安定供給できるのかの問題が常につきまとい、さらに発電事情が未整備な国や地域では必ずしも使いやすいクルマとは言えない。本格普及のためには、単純に技術的な進歩だけでなく、国・地域のエネルギー政策や素材問題も関わってくるのだ。 また車重の問題もある。バッテリー電気自動車は大型SUVだと2~3t(トン)レベルになる。 そう考えると、従来のエンジン技術が使え、また電動化の技術も使えるハイブリッド車にはまだまだ使命があると言える。確実に、バッテリー電気自動車よりも軽量化がしやすい点だけみてもアドバンテージがまだある。それは実用車のみならず、嗜好品のような性格のクルマにおいても、ハイブリッド車が生きる道が残されている。新型プリウスは、その可能性を確実に広げられることを証明する存在なのである。
小沢 コージ