山崎隆之八段と見る激闘の結末 第72期王座戦五番勝負第3局
藤井聡太八冠の誕生――歴史的一戦となった第71期王座戦五番勝負から早1年。そのとき失ったタイトルを取り返すべく、 挑戦者としてこの大舞台に戻ってきた永瀬拓矢九段と、藤井王座が再び激突しました。 決着局となった第72期王座戦第3局の模様を、藤井王座、永瀬九段の両者と幾度も戦い、その戦い方をよく知る山崎八段の解説でお送りします。 冒頭では、2人の印象を語っていただきました。
以下は、2024年11月1日に発売された、『将棋世界2024年12月号』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)に掲載された、『山崎隆之八段が語る王座戦第3局』より、一部抜粋してお送りします。 (以下抜粋) ■山崎八段から見た両対局者 ●王座戦第3局の解説を山崎隆之八段にお願いします。本局は関西の普及グループ「西遊棋」が現地大盤解説を仕切り、山崎八段はゲストとして出演しました。 藤井聡太王座の2連勝で第3局を迎えましたが、それまでの対局をどうご覧になりましたか? 「お互いに得意の角換わりでぶつかり合いました。永瀬拓矢九段の序盤戦を見ていると、時間の使い方などから膨大な準備をしてきているのがわかります。去年の五番勝負と同じくらいの迫力を感じました。 一方の藤井王座は今期のタイトル戦で私を除き、渡辺明九段や伊藤匠叡王、永瀬九段という棋界でも序盤戦術がトップ級の方々にリードされることもよくあったので、その辺りは意識して挑まれているのかな、と。 タイトルを初めて奪われて不調という声もありましたが、内容とともに調子を上げてきていました」 ●山崎八段は今年6月からの棋聖戦五番勝負で藤井棋聖に挑戦しました。タイトル戦という大舞台で戦ってみて、改めてどんなことを感じましたか? 「自分の読みを上回る寄せなどは、知っていた通りでした。藤井棋聖の強さは棋譜に存分に表れていますし、普段から見続けています。 一つ感じたのは、どう戦うかという自分の姿勢が曖昧だと通用しません。藤井棋聖を追い詰めた方々は確固たる戦い方ができていて、それは積み上げてきた自信があるからです。自分はどちらかというと捨て身な感じだったので、厳しかった。 自分の弱いところも勝手にこちらだけが気にしてて、藤井棋聖のほうは自分がいいと思う手を指している。そこはちょっと情けなかったです」 ●山崎八段は、挑戦を決めた棋聖戦の準決勝で永瀬九段と対戦しています。最近の永瀬将棋を見ていて、どんなことを感じますか? 「2月に朝日杯将棋オープン戦で優勝されているので早指しも強いのは当然なんですけど、やっぱり持ち時間が長い将棋で安定感があるように感じます。 特に王座戦に関しては時間の使い方など、より隙がないなと。確かに調子を落とされていた感じはしていて、特に相居飛車戦で時間がなくなったときに乱れが見受けられることがありました。それでも王座戦の本戦など5時間の将棋では時間をしっかり残して永瀬さんらしく勝ちきることが多く、調子は戻されていた印象でした。 本人もおっしゃっていましたけど、昨年の五番勝負で敗れたダメージでその後に調子を崩した。永瀬さんも人の子なんだなと思いましたね。あそこまですさまじい内容を見せられたのは、永瀬さんが自分の全てを懸けて戦っていたからです」 (第72期王座戦五番勝負【第3局】全身全霊で創り上げた一局/【解説】山崎隆之八段 【記】大川慎太郎)
将棋情報局