トム・ヨーク立川に降臨 レディオヘッドの名曲も披露、集大成ツアーで見せた「劇的に美しい内面世界」
ツアーで到達したひとつの極点
特筆すべきがヴィジュアルで、歌い演奏するトムをさまざまな角度から捉えた映像をリアルタイムでエフェクト処理して背後の巨大スクリーンに投影する。楽曲ごとのヴィジュアル・イメージがしっかりあって、通常の照明の代わりにスクリーンからの光が会場を照らす形となって雰囲気を作り、アブストラクトでカラフルでサイケデリックなプロジェクションマッピングが楽曲と融合して、まるで会場全体がトム・ヨークの内面世界になったような、劇的に美しい空間を作り上げていた。その没入感覚はとんでもなく新鮮であり、現実逃避感覚は強烈だった。筆者の席は比較的後ろのほうで会場全景が見えたので、そうした演出効果がよくわかった。 ソロ曲のほかレディオヘッドの曲を10曲もやったのは、いかにもトムのキャリアの集大成と思わせた。反面ザ・スマイルやアトムス・フォー・ピースの曲を1曲しかやらなかったのは残念だったが、バンドならではの楽曲でありメンバーが揃わないと再現できないということなのかもしれない。そう考えるとレディオヘッドの楽曲がいかに自由な発想の元に生まれてきたか、いかに汎用性が高いか思い知らされる。 たっぷり2時間のライヴの締めはトムが生ギターを弾き語る「Lucky」。もちろん『OKコンピューター』の名曲だ。息を呑む圧倒的な静寂の中、トムの声とギターの音しか聞こえない。それは今回のツアーでトムが到達したひとつの極点を示していた。
Dai Onojima