「トップ20のホテル以外の客からは予約はとらない」 外国人富裕層が足繁く通う銀座の高級寿司店”納得の差”
■普通の人が行ける寿司の上限は「3万円」 ”寿司バブル”と言われる今の時代、1人5万~6万円を超える店も珍しくない。しかし杉山氏は自分の店はあくまで適正な価格であり続けたいという。もちろん超一流の高嶺の花の銀座の寿司店だ。特別なワインなどを飲まなくても3万円台にはなる。しかし、それが、ある程度余裕のある普通の人が行ける上限の価格だと考えている。 温暖化による資源の枯渇、円安による諸物価の値上がり、人件費の高騰など、諸般の厳しい事情から考えると、並大抵の努力ではその価格帯におさまらない。
ちなみに2000年より前には1kg1.5万円だった鮑が今は3.5万~4万円にはね上がっているそうだ。原価を抑えるためには、まず、数字に厳しくなることが最も大切であるという。毎朝の仕入れの請求書には誰よりも厳しく目を通す。 そうした徹底した管理と客の需要へのきめ細かな対応の結果、現在も経営は順風満帆、繁盛店であり続けている。現在の悩みの種といえば、“働き方改革”の問題だそうだ。今は、2~3年の修業で独立している若い衆も多いけれど、やはり10年は修業しないと本当の意味での技術が身につかない。
また、昔なら早朝に河岸に行って、夜遅くまで働いたわけだが、労働時間が8時間と制限されている今、そんなことをしたらたちまちブラック企業のリストにのってしまい、若い子が誰も来なくなってしまう。 しかし、「週5日1日8時間では足りない」というのが本音だ。修業というものは、一時期、寝食を忘れて打ち込むくらいでなければ、一生ものの技術は身につかないのである。 ■海外から出店の誘いもあるが日本に集中 「次世代にどう残していこうかというのが経営プランの中の大きな柱です。これ以上大きくしようというのではなく、働く側にも客の側にも居心地のいい形でやっていこうというのが経営理念です」と杉山氏は語る。
「聞いた話ですが、韓国は100年企業が極端に少ないのだそう。それは、急速な右肩上がりを求めるからだとか。海外に店を出す話も100回以上ありましたが、早い時代から、海外との仕事もやってきて、海外でやることの難しさをよくわかっていますから、すべてお断りしました。 日本店をたたんで、海外に移り住み、私一人でやるのなら収入は倍になるだろうけれど、社長としてやるには、出張に1回100万かかることだけを考えても、3~4軒経営しないと割が合わない。それでは日本の方が手薄になってしまいます」とも。
こうした堅実な考え方の上に立つ、先見の明、そして運のよさが、100年以上続く繁盛店の背景にはあるのだ。
小松 宏子 :フードジャーナリスト