「トップ20のホテル以外の客からは予約はとらない」 外国人富裕層が足繁く通う銀座の高級寿司店”納得の差”
杉山氏のもとには20年ほど前から、香港、シンガポール、台湾など、多くのアジアの大富豪が訪れるようになっていたのである。「口コミですか?」とその理由を尋ねると、まずは香港の大富豪と仲良くなったのだそうだ。 インフルエンサーであったその彼が、セレブ仲間に次々と同店のことを薦め、気づいたら自家用飛行機で来るようなインバウンド客が何人もいるような状況になっていた。 そこで、杉山氏は店のスタッフたちに英会話を習わせたのである。週4コマのレッスンがもう10年も続いている。だから、若い板前たちは、海外からのゲストの対応をしっかりと任せられるまでになっている。10年以上も前にそうしたアイデアを思いつくというのはさすがとしかいいようがない。
さらに当時、ペニンシュラやマンダリン・オリエンタルなど高級ホテルのコンシェルジュに15枚分の招待状を出した。必ず20時すぎに3~4人で来ることを条件にして。そして、実際に、インバウンド客とのやりとりを見てもらう。すると、ホテルゲストから寿司が食べたいというリクエストがあったときに、コンシェルジュたちは自信を持って銀座寿司幸本店を推薦してくれるようになった。 「どんな飲食店も菓子折りくらいは持っていくだろうが、こうしたことをやった店はないのではないかと思いますよ。たった数十万円、広告宣伝費と考えれば安いものです」と杉山氏。
「このやり方のいい点として、高級ホテルからの紹介の客であれば、トラブルを起こすことがほとんどないということもあるんです。逆にトップ20以外のホテルからは予約をとらないようにしました」 コロナ明けにいち早くインバウンド客が戻ったのもこうしたアイデアと努力の賜物である。現状は3割がインバウンド客だそうだ。また、彼らは20時半~という遅い時間帯を好んで来てくれるというメリットもある。 予約の電話で、早い時間帯は空いていないけれど、20時半~なら入れますよと答えると、日本人客の場合8割は断るというが、インバウンド客はむしろ喜ぶ。欧米の食事文化の時間帯を考えれば当然ともいえることだが、二毛作ともいうべき、客の入りが望めるわけだ。