<ライオンの隠れ家>松本友香Pが語る作品への思い「世の中の人が知る機会がないことをうまく汲み取れたら」 柳楽優弥らの起用理由も明らかに
柳楽優弥主演の金曜ドラマ「ライオンの隠れ家」(毎週金曜夜10:00-10:54、TBS系)が現在放送中。同作は、柳楽演じる市役所で働く平凡で真面目な優しい青年・小森洸人(こもり・ひろと)と、坂東龍汰演じる自閉スペクトラム症の美路人(みちと)の兄弟が、突然現れた「ライオン」と名乗る謎の男の子(佐藤大空)との出会いをきっかけに“ある事件”に巻き込まれていくヒューマンサスペンス。完全オリジナルストーリーで描かれ、温かなヒューマンドラマと、先が読めないスリリングなサスペンス展開が心地よく絡み合っていく。 【写真】佐藤大空“ライオン”と遊具に乗り笑顔で手を振る坂東龍汰“美路人” このたび、WEBザテレビジョンでは、同作のプロデューサーを務める松本友香氏にインタビューを実施。作品への思いや制作裏話、キャスト陣の魅力、後半に向けた見どころなどを聞いた。 ■「こんなに温かい感想ばかりをいただけることはあまりない」 ――第5話の放送が終わり、折り返し地点となりました。放送が始まってからここまでの視聴者や周囲からの反響をどのように感じていますか? こんなに温かい感想ばかりをいただけることはあまりないなと感じています。過去の作品では、賛否両論があったり、作り手にとってグサッと刺さる言葉、鋭い指摘などももちろんありました。そういった感想もありがたいですが、今回は見てくださっている方の優しいコメントや感想、温かい言葉がとても多いです。このドラマを受け取ってくださっている視聴者の皆さんがすごく優しくてすてきな方々にあふれているなと思っています。 ――サスペンスパートも盛り上がってきましたが、雰囲気作りで意識していることや、参考にしている作品はありますか? 金曜ドラマでいうと「最愛」(2021年)や、直近で言うと「笑うマトリョーシカ」(2024年)などもそうですが、サスペンスの軸をこのドラマもしっかり作りたいという思いがあります。スタッフもいろいろなTBSドラマをやっているメンバーなので、そういったベースがある中で、例えば、映画「怪物」(2023年)の森林を走る男の子2人のようなかっこいいビジュアルが作れたらいいよねとか、韓国ドラマのサスペンスチックな世界観や映像がきれいだよねという具体的な話はしました。 ――“平凡な兄と自閉スペクトラム症の弟と謎の男の子”という新しい3人組の設定を思いついた経緯をお聞かせください。 元々金曜ドラマの枠をやりたくてTBSにいるところもあり、次はヒューマンな企画をやりたいという思いからたどり着きました。「3人のパパ」(2017年)というドラマでプロデューサーデビューをしたのですが、そのときも、「人にやさしく」(フジテレビ系)というドラマが好きで、ああいう大人と子どもの組み合わせのドラマを作りたいなと思って手掛けました。 そういう自分の好きなジャンルの中で新しいものをと思ったときに、また大人と子どもで、なおかつ“きょうだい児”と言われているような主人公、そしてその兄弟の中に子どもが入ったらどんなストーリーが生まれるのだろうなと思い、企画書を書きました。 ――無戸籍者や障がい者の生活が丁寧に描かれていますが、ドラマでそういったテーマを描くことの意義はどのように感じていらっしゃいますか? 毎日ニュースを見ていると、時代が変わっても虐待など同じような事件が繰り返されていますよね。ここ最近だと親権についての法改正も行われている中で、ちょうど今のタイミングにこの話題のドラマが合うのではないかなと思いました。 具体的にこれらの社会問題を刺していきたいという思いがあったわけではないですが、普遍的な物語の中にも漠然と今の社会問題や、深くは触れられていないドキュメンタリーをエンターテインメントとして描いて、世の中の人が知る機会がないことをうまく汲み取れたらいいなと思いました。 ■柳楽優弥の圧倒的な“間や目配せ、雰囲気”に感嘆 ――柳楽さんのキャスティング理由を教えてください。また、実際にこれまでの演技を見てどのような手応えを感じていますか? 諦めだったり閉塞感だったり、少し暗く閉じこもった洸人という役どころを考えたときに、イメージが湧く方はいるのですが、イメージが湧く方にそのままやってもらうのが果たして面白いのだろうか、ディープなトーンがより暗い方向に行ってしまうのではないか、といろいろな葛藤がありました。 そんな中、たまたま柳楽さんのスケジュールが撮影を目指している時期に空く情報を聞いて、柳楽さんが今まで演じられていた個性的でハードな役とは違う、“返り血を浴びない役”をやったら面白いのではないかと思いました。 ちょうどその頃に「さかなのこ」(2022年)という映画を見て、そこでの柳楽さんの役が、ヤンキーだけど実は根が優しく、主人公をサポートする青年という役で、きっと洸人のような、優しさがあふれる、美路人のために生きる役が合うのではないかと確信が持てたのでお声掛けしました。 今回の役の演技にも実際にそういった根底の優しさがにじみ出ていますし、セリフだけではない間や目配せ、雰囲気など、台本にはないそれ以上のものも作り上げているので、そこが圧倒的だなといつもモニターを見ながら感嘆しています。 また、今回は他の方々のキャスティングも自分的に頑張った!と言ってあげたいのですが、やっぱりそれも柳楽さんが主演だからこそ、やってみたいと思ってくださった方々がすごく多かったと思うので、柳楽さんのパワーがものすごくあったなと思います。 ――坂東さんのキャスティング理由を教えてください。また、演じる美路人の自閉スペクトラム症の研究については、どのようにされましたか? 坂東さんとは、一緒にやるのは3回目になるのですが、元々私が映画「閉鎖病棟―それぞれの朝―」(2019年)でのお芝居がすごく好きで、一緒にお仕事をしたいなと思っていたのが最初にお仕事をしたきっかけでした。そして今回この企画書を立ち上げたとき、自閉スペクトラム症の登場人物が生まれたので、 “坂東さんだ!”と思いました。 スタッフは、自閉スペクトラム症の権威と言われている本田秀夫先生の本を読んだり、リモートで講義を受けたり、今回監修に入ってもらっているさくらんぼ教室にも何度も通って勉強しています。監督、プロデューサー、助監督陣はいつでも勉強できる体制を組んで、そこに坂東さんも加わり、足繁く通いながらコミュニケーションを取っていきました。 あとは、坂東さん自身も「こんなドキュメンタリーがありますよ」など、監督や私たちに自分で勉強したものをどんどん共有してくれるので、それを柳楽さんにも共有して、常にチームが「あの作品のああいうところをうちの作品にも反映できるよね」という共通言語を持てるような状況を作っていきました。 ――5歳の佐藤くんの演技がネット上でも話題を集めていますが、オーディションでの決め手と、実際に演じてもらった印象をお聞かせください。 すごくウエイトが高い役なので、今回のオーディションは、セリフがある役を演じたことがある5歳から7歳に絞って募集しました。まずは70人くらいから10人くらいに絞ってじっくり見て、最後は4人くらいまで絞ってまたじっくり1カ月以上かけて見て決めるといった、長期間でした。要求に対してどういうフィードバックがあるか、人と慣れたらどういうふうに変わるのか、撮影期間も長いのでその変化も見つつオーディションをできればなと思いました。 大空くんに関してはエネルギーがあり余り過ぎていて、オーディション部屋から飛び出て走ったり、いつも本人が持っているキツネのぬいぐるみを投げ回したりしていて、“落ち着いてー”という感じだったのですが(笑)、「よーい、スタート」となると、自然に、本当にそこにライオンがいますという感じで、自分ですっと役に入っていたのがすごいなと感じました。役としても生意気さや人を振り回すところがあるので、そのエネルギーをうまく私たちがお芝居の方に誘導していけたらいい感じになるだろうなというところがありました。 また、これまでも「コウノドリ」(2015年、2017年)や「3人のパパ」など、子どもが出てくる作品に携わってきた泉正英監督が「絶対に大空くんがいい」「俺が責任を持つ」と言ってくれたのも、決め手の一つになりました。 大空くんに決まってからは、3カ月間、週2回のペースでTBSに来てもらって、泉監督を中心とした助監督たちで“大空チーム”を作り、セリフを練習してもらうというよりは、一つ一つの気持ちを説明したり、どういうお話でどういう気持ちになるのかというのを相談したりしました。最初は鬼ごっこから始まり、木登りなどいろいろなプログラムを組んで、スタッフとも信頼関係を築く取り組みを3カ月続けました。 本当に全く物怖じしない子なので、柳楽さんの膝にも走り込んで乗っかったり、スタッフやカメラマンさんの名前もみんな覚えているので、誰にでも分け隔てなく物理的に“ツッコミ”にいったりしています(笑)。 ――最後に視聴者へのメッセージをお願いします。 だんだんサスペンスの要素が出てきてそこが面白い部分ではありますが、大事にしているのは3人のヒューマンであり、洸人と美路人の兄弟の関係性が、サスペンスの嵐があるからこそどう成長していくのかというところがこのドラマの良さだと思うので、根底にあるヒューマンの温かさに癒されつつ、サスペンスがどう展開していくのかにご注目いただければなと思います。