自民総裁選に「カバン・看板・子分」ナシで挑戦 「齋藤健経産相」はなぜいま無謀な戦いに打って出たのか
問われるべきは「国のマネージメント能力」
――岸田総理は不出馬会見で「総裁選で新生自民党を示すことが重要」と語りました。齋藤さんは、ここは刷新感の強い若手議員に託すべきだとは思いませんか。 誰がいいとか悪いとか言うつもりはありません。ただ刷新感も大事だと思いますが、総裁選は総理大臣を選ぶ選挙ですから国のマネージメント能力も問われると思います。私は自民党議員が持つ最も重要な一票は、総裁選の一票だと思うんです。今の経済状況や国際環境の中で、総理大臣に誰がふさわしいのか。一人一人の自民党議員が、誰に言われたからとかしがらみがあるからではなく、政治家として自ら判断する重い責任がある。今回の総裁選がそういう本来あるべき総裁選であることこそ、「新生自民党」ではないかと思います。 ――一方で齋藤さんより政治経験が豊富なベテラン議員も複数立候補していますが 皆さん有能な方々ばかりです。ですが、今は自民党が変わらなければならない重大局面、千載一遇のチャンスなんです。新しい発想を持つ、新しい力が必要なんじゃないでしょうか。 私は尊敬する政治家を聞かれると、常に原敬首相の名前を挙げてきました。原敬首相は1921年11月4日午後7時25分、東京駅で兇刃に倒れましたが、それからちょうど100年後、2021年の同日同時刻に私は丸の内南口の暗殺現場に立ち、原敬首相の魂に思いを馳せました。原敬首相は薩長中心の藩閥政治に対抗しながら平民から宰相に上り詰め、命がけで真の民主主義の実現のため政治改革を断行しました。所属していた政友会は、自民党の前身じゃないかと言われています。自民党の前身にかつてこれほどの政治家がいた。それに比べて「今の自民党はどうなんだろうか」と私は思わずにはいられないんです。今こそ命を懸けてでも変えなければいけない時ではないでしょうか。さらに具体的な方策は、出馬会見までに明らかにしていきます。
「こういう国に住みたい」という夢
――そもそも推薦人20人の見通しは立っているんですか。 私は一貫して言わないことにしています(笑)。 ――では推薦人が揃って総裁選に出馬できたとして、勝算はあるんですか? 総裁選はやってみなくちゃ分かりません。選挙戦はこれからですからね。何が起こるか分かりませんよ。私には夢があるんです。「こういう国に住みたい」という夢。その理想を全力で実現していくという思いを、愚直に訴えていきます。 *** 立候補への思いを熱く語った齋藤氏。だが自民党内を取材すると、推薦人集めはギリギリの状態のようだ。また、勝敗の鍵を握る党員票をどの程度獲得できるかは、まったくの未知数でもある。しかし、こうした後ろ盾がない議員が、強い危機感と周囲の思いに動かされて立候補できるかどうかが、派閥解消後の自民党総裁選の本質を見極める一つの試金石と言える。齋藤氏の訴えが届くのか。単なる無謀なチャレンジに終わるのか。私たちもきちんと見届ける必要がある。 青山和弘(あおやま・かずひろ) 政治ジャーナリスト。東洋大学非常勤講師、青山学院大学客員研究員。1968年、千葉県生まれ。元日本テレビ政治部次長兼解説委員。92年に日本テレビに入社し、野党キャップ、自民党キャップを歴任した後、ワシントン支局長や国会官邸キャップを務める。21年9月に独立し、メディア出演や講演など精力的に活動している。 デイリー新潮編集部
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