「即身仏」に魅せられ 元県職員が写真紀行出版 15年にわたり撮影
かつて空海の教えのもと、山にこもって木の皮や実だけを食べる修行を続けて骨と皮だけになり、岩の中や地中で読経しながら死にたえた修験者がいた。ミイラ化した亡骸(なきがら)は、保存処理されて今も各地の寺院に残る。そんな「即身仏」に魅せられた元埼玉県職員で写真愛好家の野沢博美さん(81)=皆野町三沢=が、15年にわたり各地を回ってその姿を撮影し取材した写真紀行「即身仏巡拝」を出版した。【照山哲史】 テレビ番組で存在を知ったのがきっかけだった。「民衆を救うためとはいえ、食を制限したり、時に身を削ったりしながら、死んでいく背景にはどんな思いや経緯があったのか」。最初は興味本位だったが、寺の住職や地元の人たちから話を聞くうちに、より深く知りたいと思い関連資料も読み込んだ。 2008年から始まった巡拝の旅は、山形、新潟、福島、茨城、長野、岐阜の6県13市町にある18の寺院に及んだ。即身仏は、通常は拝観できても撮影禁止がほとんど。それでも、二度、三度と足を運んで、住職を説得した。 火災で焼失し骨だけになってしまった新潟県の寺と、発掘調査でも発見できなかった山形県の寺を除く16の寺で「存在」を確認。計15の即身仏の撮影に成功し、最後まで撮影許可が出なかった茨城県の寺の即身仏は自身のスケッチに替えた。 紀行では、古くは1363年に亡くなった弘智(こうち)法印(ほういん)(新潟県長岡市の西生寺安置)から、1903年に亡くなった仏海(ぶっかい)上人(同県村上市の観音寺安置)まで18の即身仏を紹介。安置された寺や周辺施設などの説明を写真とともに掲載し、即身仏を保存する人たちから聞き取った修験者の生活ぶりや修行の様子なども載せた。 県職員時代に仕事で覚え、その後趣味になった写真撮影。これまで鷹匠に関係する写真集や、写真紀行「湯殿山系『即身仏の里』」を出版した。「なぜあのような姿になるまでして衆生の苦難を救済しようとしたのか。紀行が、彼らの心情に迫る旅に出るきっかけになれば」 前回紀行は即身仏という配慮から写真はモノクロだったが、読者からの要望もあり、今回はすべてカラーで186点を掲載している。税別で2250円。購入希望は野沢さん(0494・65・0002)、または小石川書店(0494・22・5486)。