「英国・労働党が階級概念と決別 ワーキング・ピープルのための政党へ」ブレイディみかこ
英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。 【写真特集】大物がズラリ!AERA表紙フォトギャラリーはこちら * * * 米大統領選で勝利したトランプ前大統領は、共和党をワーキング・クラス(労働者階級)の党にしたと言われた。逆に、負けた民主党はワーキング・クラスを捨てたと言われて久しいが、英国の労働党政府に至っては、もはやその言葉を使うことすら避け、「ワーキング・ピープル(働く人々)」を連呼している。 リーブス財務相は、それを「仕事に出かけ、収入のために働く人々」と定義した。スターマー首相も同じようなことを言っている。労働党は、ワーキング・クラスではなく、ワーキング・ピープルの政党になったらしい。 これには、自宅で働く自営業者など、定義からこぼれ落ちる人々からの批判の声も上がっているが、最も衝撃的なのは、こうした党の方針が階級の概念への決別を意味することだろう。つまり、年収が数百万円だろうが、数億円だろうが、働いて税金を納めている人々のために労働党は政治を行いますと言っているからだ。 ワーキング・クラスは、働いているかどうかではなく、階級を指す言葉だった。自分は働いていなくとも、低所得の家庭で育つ子どもや、長年働いて引退した元ブルーワーカーの年金生活者、老いた親や障害を持つ親族のケアのために働けない貧しい人々なども含まれていた。労働党政府がこれらの人々の政党でなくなったことは、公的扶助の増額を第2子までとする上限を撤廃しない姿勢や、年金生活者の冬季燃料代補助の事実上廃止などを見れば納得できる。 1999年に労働党のブレア元首相は「階級闘争は終わった」と言った。現政権はブレア政権を模倣しようとしているが、四半世紀も経って同じアイデアが通用するわけがない。むしろ、人々は今、40年前よりも「自分は労働者階級だ」と感じているという調査結果もある。 階級政治と反緊縮を組み合わせた経済重視の新左派勢力が2010年代半ばに欧州で勢いを伸ばしたが、不発のまま終わった。あれから10年が過ぎ、直近のYouGov調査では、最も人気のある政党は緑の党で、2位は自由民主党だ。中道に寄った労働党が政権を取って迷走していることが、ようやく左派の新旧交代を可能にしている。 ※AERA 2024年12月2日号
ブレイディみかこ