「和=枯山水」? 日本オリジナルの自動車デザインとは何か
3世代にわたるアテンザの変遷
筆者がその動きに気付いたのは二代目アテンザが出た時だ。2002年に発売された初代アテンザは、明らかに欧州式デザインを志向したものだった。 デザインスケッチを見るとはっきり分かるが、フロントフェンダーで形作られる梁(はり)をイメージさせる面がドア上部を通って、トランクまでためらいなく回り込む。クルマの前から後ろまでズドンと通るこのウェストラインはクルマ全体のマス(質量感)を支える太く力強い面構築だ。サイドウインドーのBピラーを黒く塗り潰して、この梁の水平な真っ直ぐさと伸びやかさを強調している。
つまりウェストラインでクルマの強さを、その正確な水平感でフォーマルさを、窓の余分な構造物を黒く塗り潰して消したサイドウィンドーラインで軽快感を演出している。こういう論理性の強い形は当時の欧州車に多く見られたデザインである。 2008年に現れた二代目アテンザはこれとは全く違うデザインだ。側面に関しては、前後方向に面を通す気がない。クルマ全体を見渡して最も強調されているのは、左右に目一杯トレッドを広げられ、フェンダーによって強調されたフロントホイールだ。クルマとしての力強さの源泉を梁ではなく、駆動輪に置いた。それは存在感の強調されたエンジンと前輪に、キャビンが引っ張られて行く形だ。
前輪の存在感を作り出すためにフェンダーのラインはサイドのキャラクターラインと混じり合わず、下方へ抜けて消えていく。ただしここには迷いがあったらしく実車ではキャラクターラインの高さで止められた。 これが駆動輪の象徴する「加速感」なのか操舵輪の象徴する「機敏さ」なのかは微妙なところで、後輪駆動のRX-8でも踏襲されたこの形状を見ると操舵輪である可能性も否定できないが、アテンザの場合エンジンの存在感の強さが加わっていることを感じるので、強調されているのは駆動輪なのではないかと思うのだ。
エンジンの象徴であるフロントグリルのラインは、そのままボンネットの段差となってルーフへと上がって行く。初代ではグリルの両サイドに柱のような造形を入れて、バンパーと力強くつなぐことで塊感を演出しているため、グリルはノーズに空けられた穴に過ぎないが、二代目のデザインでのグリルはクルマ全体の先端になっているのだ。 前輪の後端から始まるサイドのプレスラインは後ろへ上がって行くウェッジラインであり、しかもそれは直線ではなく曲線で描かれている。さらに窓枠も曲線なのだが、注意深く見るとプレスラインより弱目の上昇ラインを描いて、ウエストライン上の面はねじられながら側面視で細くなっていくのだ。