【6兆円の血税投入という衝撃】政府はガソリン補助金をいつまで続けるつもりなのか?補助金投入で失う産業競争力、脱炭素との逆行も
費用はいくら掛ったのか
ガソリン、軽油などには多様な税が課せられている。石油連盟によると23年度の税額は、消費税1兆9100億円を含め総額5兆7600億円になる。石油諸税3兆8500億円に総額2兆2129億円のガソリン税(53.8円/L)と総額9275億円の軽油取引税(32.1円/L)が含まれている。ガソリン税の内48.6円/Lの揮発油税と石油石炭税(2.8円/L)は一般財源になっている。 23年度の一般会計歳入(当初予算)69.4兆円の内、消費税を含めると約4.5兆円が石油系燃料からの税収だ。 ガソリン税の中には暫定上乗せ分25.1円/L、軽油取引税の中にも暫定上乗せ分17.1円が含まれている。上乗せ分は、本来であれば価格上昇時に減税されるトリガー条項制度の対象になっている。 ガソリンの全国平均小売価格が1L当たり160円を3カ月連続で超えた場合、暫定上乗せ分の課税を停止する制度だ。既に発動される価格に達しているが、発動することなく補助金が支出されている。 経済産業省によると、補助金の予算額は21年度から23年度までの補正予算額などを合計すると累計で6兆3645億円に達している。今年2月までの2年間に4.6兆円が使用されたと報道されている。 税収の多くが補助金として支出されるのであれば、トリガー条項を発動し、ガソリンと軽油価格を下げるべきだが、簡単にできない事情がある。補助金の対象に業務用などにも使用される重油と灯油が含まれているからだ。
補助金はどの産業を助けたのか
ガソリンへの補助額ばかり注目されるが、軽油、灯油、重油、航空燃料も補助対象だ。実績ではガソリンへの補助額は全体の半分もない。 会計検査院の資料によると、23年3月までの1年強の期間に30卸売り業者に計2兆9893億円が交付された。その内訳は、ガソリン1兆2849億円(全体の42.9%)、軽油9112億円(30.4%)、灯油2911億円(9.7%)、重油4391億円(14.6%)及び航空機燃料628億円(2.1%)となっていた。 灯油は、暖房、給湯などに、重油はボイラー、ディーゼル発電機などに利用される。円安と原油高の影響により上昇するはずの価格が、補助金により抑制された(図-2)。どの産業がメリットを享受したのだろうか。 業務部門での重油と灯油の消費量が多い業種は図-3の通りだ。L当たり平均30円の補助を受けているとすると、洗濯・美容・理容・浴場への補助額は年間300億円、宿泊業へ250億円と推定される。 物流業界は、当然大きな補助を受けている。22年度に輸送分野で消費されたガソリンは4390万KL、軽油は2460万KLだった。 ガソリン車の主体は乗用車だが、軽油の大半は営業車。軽油使用の自家用の乗用車の比率は、軽油消費量の5%に過ぎない(図-4)。 ガソリンと軽油に対する補助金の内約4割は、営業車、自家用貨物車に対する支援だ。 家計への影響が言われることの多い燃料油補助金だが、灯油、重油、ガソリン、軽油、航空機燃料が対象なので、半分は産業支援に用いられている。 クリーニング代、ホテル代、航空運賃、物流費などの値上げを抑制する効果はあったが、基本的には円安の影響を防ぐための政策を続けていることになる。