『ドラゴン桜』が道しるべだった…「寝たきり」の東大生・愼允翼さん明かす壮絶だった受験勉強
『ドラゴン桜』に自分の姿が重ねて…東大合格が目標に
香理さんが新しい道を歩み始める一方で、允翼さんの症状は進行していった。次第に握力が弱まり、鉛筆を握れなくなった。体を支える筋力も、日に日に弱くなっていった。それでも、できる限り学校に通い、介助員に代筆してもらってテストを受けた。成績はいつもトップクラスだった。 だが、「学校にはなじめなかった」と、允翼さんは振り返る。 「小学校低学年のころ、工夫しながら友達と外で遊ぶこともありました。しかし、高学年になると、まわりの友達は自転車で遠出するようになって、なかなか遊べなくなった。中学の友達は結局1人だけでした。僕も心に鍵がかかるようになった」 進学し勉強を続けることだけが希望になった。 「『ここから抜け出したい』という思いがありました。あるとき、『ドラゴン桜』というドラマを見て。中学くらいのときかな。『東大に入れば、何かを変えられる』と思ったんです」 学校の“はみだし者”たちがカリスマ教師に導かれ、東京大学を受験する──。学校になじめない生徒たちの姿が自分に重なった。 しかし、高校受験でどうしようもない壁にぶち当たる。“前例がない”ことを理由に、介助員の代筆による入試を、多くの高校で断られたのだ。当初、千葉県内の公立高校も対応に難色を示していたが、筑波大学附属高校(東京都文京区)が対応に応じてくれたことで風向きが変わった。代筆と試験時間の延長が認められた。 筑波大学附属高校は不合格だったが、後期試験で千葉県立船橋高校に合格した。「絶対に諦めない」と高熱を押しての受験だった。 ■「東大に入れば人生が完結するわけでもない」 自分でテキストを開くことができない允翼さんの勉強法は独特だ。とにかく視界に入る壁や天井に英単語や数式を貼り付けて、穴があくまで見つめて暗記する。また、学習内容を朗読するCDを繰り返し聴いて頭にたたき込む。 千葉県が派遣する学校介助員の支援を受けながら学校に通い、全身全霊をかけて勉強した。 高校2年生の夏には、東京大学先端科学技術研究センターが、高等教育を目指す障がい児童・学生に情報通信技術(ICT)を提供するプログラム「DO-IT Japan」に参加。プログラムを通じて、似たような境遇にある仲間や、社会を変えたいという同じ志の仲間に出会い刺激を受けた。そうして挑んだ東大受験。結果は不合格だった。母・香理さんはこう振り返る。 「“負けず嫌い”ですから。現役時に不合格になったとき、私のアルバイト先に電話をかけてきて、『オンマ、来年は必ず受かるからね』って大泣きでした」 1年の浪人生活を経て、2016年から新たに始まった推薦入試に挑戦。書類審査通過後、論文試験とプレゼンテーション、面接を乗り越えた。そして最終的にはセンター試験で9割近い点数を獲得し、見事允翼さんは合格を果たす。 ──寝たきりで東大に合格。 そんな見出しとともに、快挙が伝えられた允翼さんは以降、メディアに出る機会も増えたが、本人はいたって冷静だ。 「これでめでたしというニュアンスでまとめられることには、違和感があります。東大に入れば人生が完結するわけでもないし。それに受験勉強はいま思うとたいした苦労ではありませんでした。東大に入ってさらに大変な勉強が待っていましたから」 【後編】「寝たきり」の東大生・愼允翼さん語る次の目標「自分のために勉強をするのはそろそろ終わり……」へ続く (取材・文:本荘そのこ/写真:水野竜也、高野広美)
「女性自身」2024年12月3日号