令和に乗ったトヨタ・スープラ80は“ワイルド・スピード”の気分だった 高騰する平成スポーツカーの魅力とは
歴代のトヨタ「スープラ」を、サトータケシがイッキ乗り! 次は中古車市場で高騰中の3代目スープラ、通称“80”だ。 【写真を見る】2002年型スープラRZ-Sの内外装(26枚)当時の貴重なカタログも
秘めたるパワー
歴代スープラの垂直テイスティング、掉尾を飾るのはA80型。2002年型のスープラRZ-Sの6MT仕様で、80スープラが生産されたのは1993年から2002年までだから、最終モデルということになる。85年型セリカXXからスタートして、いよいよ21世紀に入る。 筆者は、80スープラの現役時代にすでにこの仕事をしていたけれど、不思議と縁がなかったようで、運転したという記憶がない。エクステリアもインテリアも新鮮に感じる。 運転席に収まると、ドライバーに向けてオフセットされたメーターパネルと対峙することになる。中央が8000rpmまで刻まれたタコメーター、左側に180km/hまでのスピードメーター、そして右側にブースト計、水温計、燃料計。腕時計のクロノグラフみたいなメーターの配置と囲まれているという雰囲気に、ぐぐっと気分がアガる。“コクピット”という表現がしっくりくる。 比較的ストロークが短く、相応の踏み応えがあるクラッチペダルを踏み込んでエンジンスタート。2JZ-GTE型の排気量3.0リッターの直列6気筒ツインターボエンジンを始動、音量はそれほどでもないけれど重低音の利いた排気音が、秘めたるパワーを伝える。 トランスミッションを1速にシフト、「コキン」という心地よい手応えとともに、シフトレバーが吸い込まれた。シフトストロークもほどよく短い。そうだ、思い出した! 80スープラのMTは、ドイツのゲトラグ社とトヨタが共同で開発したものなのだ。 ゲトラグと聞いて連想するのは、BMWの初代「M3」とかメルセデス・ベンツの「190E 2.3-16」といったドイツのハイパフォーマンスカー。ゲトラグの6MTというだけで、ご飯が3杯おかわりできる。 低回転域のトルクは充分で、アイドル回転でクラッチをミートしてもムッチリとした密度の濃いトルクを後輪に伝え、約1.5tの車体を押し出す。ここからアクセルペダルを踏み込むと、“ミーン”という音とともにものすごい勢いでスピードが上がる。景色がコマ送りのように後方へふっ飛んで行く。 おもしろいのは、爆音が出るわけでもなく、エンジンの振動が高まるわけでもなく、シームレスにスピードが上がるところだ。滑らかなのに猛烈な勢いで加速するから、逆にモンスターのすごみがある。 なるほど、2001年に公開された映画『ワイルド・スピード』で、80スープラがハイライトシーンに登場した理由が、なんとなくわかったような気がする。静かなのに暴力的という、いままでのスーパーカーにはないキャラクターが個性的だったから抜擢されたのではないか。 “ワイスピ”をきっかけに、日本のハイパフォーマンスカーが人気を集め、アメリカでカルト的な人気を博すようになったのはご存知の通り。80スープラは、日本人選手がメジャーリーグベースボール(MLB)で活躍するきっかけを作った、野茂英雄のような存在なのだ。