米大統領選挙の「選挙人制度」は世界の笑い者── どうして始まりなぜ変えられないのか?
<建国当時、人口の多い州と少ない州の不公平をなくすために作られた選挙人制度が、今では多くの国民の票を無効化し、意思をゆがめる有害なシステムになっている>
アメリカの大統領選挙における選挙人制度は、世界で他に類を見ない有害なシステムだ。有権者の意思を大きく歪め、おかしな結果をもたらし、国民の政治参加を抑制する。 【動画】選挙集会でのトランプの「異常な様子」が話題、認知能力を不安視する声が急増...ハリスも「大丈夫?」と反応 アメリカは合理的な選挙を行うことができないようだと、物笑いの種にもなっている。私は外国特派員としておそらく100カ国の取材に携わってきたが、民主主義国家の中で、これほど異様なシステムを持つ国はないと断言できる。 そのため、ドナルド・トランプ前大統領はカマラ・ハリス副大統領より少ない得票数で5日の選挙に勝利する可能性さえある。しかもこのような事態は2000年と2016年に次いで3度目だ。 それは、子供でも知っているように、普通の人々が投票する「一般投票」にはアメリカでは何の意味もないせいだ。アメリカ以外の民主主義国すべてにおいて、一般投票は選挙のすべてに近い意味を持つというのに。 アメリカでは、一般人からの得票数より、各州に割り当てられた選挙人の数で優ったほうが勝つ「選挙人制度」を採用している。それも「勝者総取り方式」といって、各州の勝者がすべての選挙人を獲得する。 このため不満が広がっており、世論調査では約60%が大統領選挙を全国的な投票で決めることに賛成している。だが、ほとんどの国民は、そのような変革は不可能だとも考えている──まさに、とんでもなく非民主的な苦境に陥っているのだ。 選挙人の制度は、1787年の憲法制定会議で制定された。当時はイギリスからの独立を宣言した最初の植民地である13州だけが、連合を形成していた。 選挙人制度は当時、人口の多い州と少ない州の間で、影響力のバランスをとることを主な目標として始まった。それは、各州が独自に選挙を行うなら、得票数だけで勝者を決めるのではなく比較的人口の少ない州に配慮する必要があると考えられたからだ。 だが今、選挙人数が多いため「恩恵」を受けているペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、ジョージアなどのいわゆる激戦州は、一般的な意味で小さな州ではない。人口の少ない小さな州は、制度設計の趣旨に反して、無視しても何の問題もないし、実際に無視されている。 不合理なことに、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴの3大都市の有権者もまた、無視してもかまわない存在になっている。候補者は、これらの都市中心部で選挙運動をするインセンティブがない。 一票一票が等しく重要視される直接選挙なら、フランスの大統領候補がパリ、リヨン、マルセイユで選挙活動を行うように、アメリカの大統領候補も大都市に顔を出すだろう。 この非常に愚かしい制度を変える方法は、ほとんどない。というのも、この制度は合衆国憲法で定められており、修正するには各州の議会で4分の3以上の賛成が必要になる。大統領選挙の勝敗を左右する激戦州の多くが、自分たちの特権を終わらせることに同意するはずがない。 考えられる打開策がひとつ。それは、全国一般投票州際協定(NPVIC)だ。不思議なことにあまり報道されていないこの構想は、憲法を改正することなく現実的な解決策を提供する。 NPVICとは、州の得票に関係なく、全国民の投票で勝利した候補者に選挙人票を与えるという州間の協定だ。この協定は、参加する州の選挙人の数が、大統領選挙の当選に必要な票数270に達した場合にのみ、発効する。 2024年現在、NPVICは16の州と首都ワシントンで制定されており、選挙人の数は合わせて209に達している。カリフォルニア州やニューヨーク州のような大規模な民主党支持者の多い州だけでなく、バーモント州やデラウェア州のような小さな州でも支持を集めている。 この協定を有効にするには、さらに61の選挙人票が必要だ。今後、加入する可能性があるのは、ミネソタ州(選挙人10票)、ネバダ州(選挙人6票)、メイン州(選挙人4票)、ミシガン州(選挙人15票)などだ。