【相撲編集部が選ぶ名古屋場所11日目の一番】照ノ富士ばったり、ついに土。存在感見せた大の里は二ケタ勝利へ望み
体は大きいが、その割には素早く動ける、という長所が白星に結びついたということか
大の里(突き落とし)照ノ富士 今場所が最後となるドルフィンズアリーナの館内に、座布団が乱れ飛んだ。これだけ多くの座布団が乱舞するのはいつ以来だろうか。 ここまで白星街道を走ってきた横綱照ノ富士に、今場所初めて黒星がついた。土をつけたのは、大の里だ。 勝負は、かなり意外な形でついた。 【相撲編集部が選ぶ名古屋場所11日目の一番】豊昇龍、正代に連勝し勝ち越し決定 立ち合いは、勢いとしては互角、角度としてはむしろ横綱のほうがいい形で当たったように見えた。低く当たった照ノ富士はすぐ左前ミツに手をかける。右は浅く差される形になったが、差し手を返されなければ効かない形だ。照ノ富士の右と大の里の左は差し手争いのような形になった。 照ノ富士の左上手を嫌いたい大の里は、何とかこれを切ろうと、流れの中でちょっと腰を引くような動きを見せる。照ノ富士にはこの廻しは命綱なので、切られまいとついていこうとする。 そうしてわずかに照ノ富士の体が前傾したその瞬間だった。大の里はすべての差し手争いを放棄し、体を離して左へ回っての突き落とし。おそらく、その動きは全く頭の中になかったであろう横綱は、ばったりと前に落ちた。 「(立ち合いで)完全に相手にいいところを取られて、動こう、動こうと、それだけでした。(座布団が飛んだのは)うれしかったです」と大の里。今場所は星の上でも、相撲内容も、これまでと比べるといま一つ印象が薄い感じだったが、この1勝で存在感を見せた形。そういう意味では、やはり「持っている男」と言えるだろう。体は大きいが、その割には素早く動ける、という長所が白星に結びついたということか。 星の上でもこれで6勝5敗と、何とか二ケタ継続への可能性を残した。本人は、「そこは気にせず、相手に集中するだけ」と言っており、気にしているのは周りだけかもしれないが……。残りの対戦相手の中では、これまで勝てていない豊昇龍が最大の関門となるが、もしそこが突破できれば、一気に可能性が開けてくる。 一方、土がついた照ノ富士だが、この日の黒星は、対大の里ということでは、対戦成績で1対2と勝ち越されることになったので、いい気分はしないだろうが、まあ相撲内容としてははずみで負けたような感じのものでもあり、考え込む必要はないだろう。あす以降への影響はまずないと思う。 優勝争いのほうは、この日、照ノ富士も負けたが、2敗で追っていた琴櫻も霧島に敗れて3敗目を喫し、状況は大きく変わらず(霧島はこれで6勝5敗とし、大の里と同様、大関復帰につながる二ケタ勝利に望みをつないだ)。3敗は、琴櫻のほか、大関豊昇龍、隆の勝、美ノ海、そしてこの日、昨年1月場所以来の幕内での勝ち越しを決めた若隆景の5人だ(ちなみに若隆景は、あす、自ら「若隆景の大ファン」を公言している一山本と初めての対戦。これはこれでどんな相撲になるか注目だ)。 今場所も残り4日。優勝争いは照ノ富士がもう1番負けて初めて……、という感じではあるが、カド番脱出へ残り3勝1敗が要求される貴景勝、大関復帰へ残り全勝が必要な霧島、そして早い大関取りを目指すためには二ケタへ負けられない大の里と、大関の座を巡ってそれぞれの戦いを繰り広げる3人が、ギリギリの状況の中でどういう土俵を見せてくれるかが見どころだ。 文=藤本泰祐
相撲編集部