交通事故で息子が寝たきりに――介護を続ける親の苦悩と、「親なき後」への不安
骨折のアクシデント
この夏、思わぬアクシデントが起こった。7月、智恵美さんが深夜に裕貴さんの翌朝の食事を準備していたところ、足を滑らせて転倒し、大腿骨を骨折したのだ。緊急手術を受け、2週間の入院を余儀なくされた。日ごろの介護の疲れもあったようだ。 清市さんは語る。 「普段は妻に痰の吸引などを任せているのですが、入院したため、私が仕事を休んで対応しました。裕貴は声を発することができず、反応が分からない私は毎日緊張しながら処置をしていました」 じつは清市さんも3年前に大病を患っている。 「私も50代半ばになり、このままずっと裕貴と自宅で暮らせるわけではないこともわかっています。でも、裕貴は医療的なケアが必要で、ショートステイですらなかなか利用できません。地元でいろいろと探す中で、裕貴が生涯、快適に暮らしていける施設があるといいのですが……」
「親なき後問題」への対策は?
求められる、重度の障害者の「受け皿」づくり。じつは国土交通省は自動車損害賠償責任(自賠責)保険の運用益をもとに、1967年度から本格的に事故被害者の支援をしている。 前出の専門病院(NASVA療護センター)の設置、介護料の支給、ショートステイの費用助成など。介護料は月額3万6500円から21万1530円で、2020年度は4720人が受給している。
介護をする人がいなくなる「親なき後」問題については、かつて国交省の専門家会議で「最大の懸案」と指摘されたこともあり、「優先的に取り組んでいる」と国交省保障制度参事官室の高梨辰聡課長補佐は言う。 「親なき後に、障害のあるかたを安心して入所させられる施設を増やすことは急務です。最重度の脳損傷者の6割は60歳以上のご家族が介護しているという過去のアンケート結果もあります。多くの障害者を入所させられる障害者支援施設だけでなく、地域の家庭的な雰囲気で共同生活ができるグループホームも受け皿となってもらえるように、2018年度から双方を支援しています」