これは伝説のGTIの名を継ぐに値する“静かなる傑作”だ! 6代目のゴルフGTIは、どんなホットハッチだったのか?
確実に速くなっている!
中古車バイヤーズガイドとしても役にたつ『エンジン』蔵出し記事シリーズ。今回は2009年10月号に掲載された6代目VWゴルフGTIの記事を取り上げる。1976年にデビューした初代ゴルフGTIは、当初5000台の限定生産が予定されていたという。しかし、現実はまったく違う方向へと進み、過去5世代で170万台を販売する伝説のホットハッチとなった。はたして6代目は、その伝説の後継者になれたのか。 【写真11枚】6代目ゴルフGTIはどんなホットハッチだったのか? 詳細画像でチェックする! ◆伝説を復活させた5代目 “GTI is back”のキャッチ・コピーとともに派手なワッペン・グリルを引っさげて、2005年5月に日本上陸した先代ゴルフVのGTIは、すこぶる衝撃的なモデルだった。フォルクスワーゲン初のガソリン直噴ターボ・ユニットに新世代ギア・ボックスのDSGを組み合わせ、GTI史上最高のパフォーマンスを実現したのに加え、30年近い歴史のなかで初めてノーマルとは異なる専用フロント・マスクを採用したわかりやすさが功を奏して、いっぺんに人気が爆発した。 翌06年には、日本におけるゴルフの販売台数のなんと33%をGTIが占めたというから半端じゃない。フェラーリ、ポルシェじゃあるまいに、一時は納車待ち半年以上になったと記憶するから、まさに伝説を復活させたモデルと言っていいだろう。 かくいう私も5代目GTIのカップ・カーに乗ってレースに参戦し、そのエモーショナルな走りに魅了された一人だ。単に直線で速いだけではなく、それまでのVW車とは一線を画した、おもにマルチリンク式リア・サスペンションの採用によってもたらされたコーナリング性能の大幅アップが光っていた。サーキットでも、高速道路でも、峠道でも、あるいは街中でも、どこを走ってもワクワクする走る歓びを満喫させてくれる格別な1台だったのである。 そのGTIが6代目に生まれ変わって、ついに日本上陸を果たした。いったいどんな進化を遂げているのか、興味津々、ノーマルの17インチ・ホイール装着車とオプションの18インチ・ホイール+DCC(ダイナミック・シャシー・コントロール)装着車の2台の試乗車を借り出した。 ◆特徴があまりないのが特徴 新型GTIの外観上の特徴は、特徴があまりないことにある。なんて言ったら、煙に巻いているように聞こえるかも知れないが、これが新型GTIに初対面した私の率直な感想である。これまでのワッペン・グリルはもちろん、GTI専用のフロント・マスクという考え方も6代目にはない。あくまで基本はノーマルの顔。その横長グリルの上下に配した赤いラインが最大の見せどころだ。 そう、要するに初代の手法をそのまま踏襲しているのだ。どうやら新型GTIは、先に上陸した6代目ゴルフがそうであったように、初代を強く意識し、バック・トゥ・ザ・ベイシックスの哲学でつくられている。 しかし、30年以上も前ならいざ知らず、価値観の多様化した21世紀のいま、それだけで差別化を図り、存在を主張するのは難しい。そこで5代目からもスタイリング要素を引用して横長グリルのパターンをハニカム状にし、バンパーの左右には新たなアクセントとして縦長のフォグランプを配した。それでも見かけは5代目GTIに較べたらずっと地味だ。 サイド・ビュウに至っては、ホイールを除いてほとんどノーマルと見分けがつかない。リアの羽根や左右のエグゾースト・パイプの間に装着されたディフューザーも控えめで、声高に存在を主張することはない。 内装もそうだ。初代からの引用であるタータン・チェック柄のシートは5代目と同じだが、その色合いはより地味なものが選ばれているように思えた。インパネのスイッチ類の質感などはノーマル同様、5代目より格段にアップしているものの、エモーションを掻き立てるというよりは、大人っぽい洗練されたスポーティ感を醸しだすのに重点が置かれていると感じられたのである。 ◆静かなる傑作 走りも同じだった。本質的な乗り味は基本シャシーを同じくする5代目と変わらない、すなわち目を見張るような斬新さはないが、あらゆる面で格段に洗練され、安定感を増したのが新型の最大の特徴である。 最初に気づいたのはステアリング・フィールの進化だった。先代で導入された電動パワステは、重さといいしっとり感といい、文句のない域に達している。センター付近の微妙な領域でのレスポンスも素晴らしい。 サウンドも進化した。6代目ゴルフ自体の遮音が進み、余計な雑音が入らなくなったこともあって、より野太くチューニングされた排気音がほどよく室内に響いてくるのだ。 新しい直噴2リッター直4ターボの完成度も高い。タイミング・ベルトをチェーン駆動にし、シリンダー・ブロックにバランサー・シャフトを組み込むなどした結果、より軽くコンパクトになり、燃費も向上した新世代ユニットは、旧型と同じトルクに11ps増しのパワーという数字を超えて、何よりも高回転域での吹け上がりが良くなった。6200rpmからレッド・ゾーンになっているが、実際には7000rpmまで淀みなく回る。 足回りの進化も相当なものだ。ノーマルよりフロントが22mm、リアが15mmローダウンされたサスペンションは、基本的にかなり硬めの味付けだ。都内を低速で流している時など、路面の荒れをダイレクトに伝えてくるのにやや戸惑う場面もあった。しかしその分、高速道路やワインディングでは水を得た魚のようになる。5代目より明らかにロールもピッチも抑えられており、どんな場面でも路面に吸いつくような走りを見せた。 一方、新たにオプション設定されたコンフォート、ノーマル、スポーツの3つのモードが選べる“DCC”を装着した仕様では、ひとサイズ大きな18インチのタイヤを履いていても、コンフォートはもちろんノーマルでも標準車より乗り心地が良かった。スポーツ・モードを選べば、足のみならず、エンジンやステアリングのレスポンスもシャープになり、よりアグレッシブな走りが楽しめる。 DSGは低速時の繋がりがさらに滑らかになったのに加え、DとSのふたつのレインジの差が大きくなった。Dでは基本的に燃費指向。ひとたびSに入れるや、高回転域まで引っ張る過激なシフト制御を見せる。 走行安定性を高める電子デバイスも進化しており、全体として時にホイールスピンやトルクステアも見せた先代のアグレッシブさが消え、安定感が増したために、一見大人しくなったと感じられるかも知れない。が、確実に速くなっているのだ。 内なる炎、とでも言えばいいのだろうか。見かけも走りも地味になった6代目だが、秘めたるハートは熱い。台風迫る雨の箱根の峠道をなんの不安もなく駆け抜けながら、これは伝説のGTIの名を継ぐに値する“静かなる傑作”だと思った。 文=村上 政 写真=望月浩彦 (ENGINE2009年10月号)
ENGINE編集部
【関連記事】
- 世界で最もレーシング・カーに近い、これ以上純度の高いスポーツカーはない! エクシージS PPとヨーロッパ225は、どんなロータスだったのか?
- ベルトーネの美しいボディと刺激的な走行感覚! 清水草一が考える「価格を超えた価値あるクルマ」アルファGT 2.0 JTS セレスピードは、どんなアルファ・ロメオだったのか?
- エンジンは黒子、こいつの最大の魅力は脚の仕立てだ! グランデ・プントはどんなアバルトだったのか? すべてが速さを見据えてセットアップされている!
- GT-R開発にも負けていない、これぞクルマ屋の仕事! 日産マーチ12SRは、どんなホットハッチだったのか?
- 公道では速すぎる脚を持つ2代目メガーヌRSとは、どんなルノーだったのか? ちょっとやそっと頑張ったぐらいでは、限界に届きもしない(汗)【『エンジン』蔵出しシリーズ/ルノー篇】