元放送作家・鈴木おさむさんが「エンジェル投資」で目指すものは? 20代で月に数百万円を稼いでもお金に興味がなかった理由や、起業家支援を始めた理由を直撃
元放送作家で、現在はエンジェル投資家として活動する鈴木おさむさんに、世間を驚かせた転身の理由や「おカネに興味がない」という境地に至った背景を聞いた! 【図版】鈴木おさむさんの主な仕事! ●テレビ全盛期は20代にして月収が数百万円! 新たな道を選んだ理由は「ワクワクできなくなったから」 ──鈴木さんといえば、『SMAP×SMAP』や『めちゃ×2イケてるッ! 』など、数多くの人気テレビ番組の企画・構成を手がけたスゴ腕放送作家として知られています。テレビが元気だったころは、相当稼いでおられたのでは? 鈴木 まだ、インターネットがそれほど普及していなかった90年代の“テレビ全盛期”は、かなり若手の放送作家でも1時間番組で10万円はもらえましたからね。チーフになると、1回で30万円を超える人もいました。僕もまだ20代だったけど、月に数百万円は稼いでいました。 ──相当、おカネが貯まったんじゃないですか? 鈴木 それがぜんぜん(笑)。じつは25歳のとき、父親が抱えた1億円の借金を肩代わりしなければならなくなり、その返済で、稼いだおカネがどんどん消えてしまったんです。金利が高めのローン会社から借りたおカネは、利子の返済だけで月100万円でしたからね。利子だけ返しても元金は一向に減らないので、月に300万円稼いで、そのうち250万円は借金の返済に充てるという時期が5年ぐらい続きました。 稼いでも稼いでも、おカネが残らないので、おカネには一切興味がなくなってしまった。その感情は、いまだに変わっていません。 ──相当しんどかったでしょうね。 鈴木 でも、おかげで自分のことを客観的に見られるようになったのは、よかったと思っています。最初借金のことがわかったときは、辛い気持ちが整理できなくなって、おかしくなってしまいそうでした。仕事も続けられないかもと思っていたとき、テレビ局のプロデューサーさんに状況を話したら、「面白い話だから、みんなの前で話してみろよ」と告白の場を提供してもらった。 ──気持ちに変化はありましたか? 鈴木 不思議なもので、どんなに辛いことでも人前で明るく話すと、自分の人生を語っている感じではなくなってくる。自分自身のことなんだけど、あたかもドローンを飛ばして上から自分を眺めるように、俯瞰して見られるようになる。 自分が置かれている状況を客観的に見るクセが付きました。これは、30年以上続けた放送作家を辞める決心をしたことにもつながっていると思います。 ──そもそも、なぜ「放送作家を辞める」と決心をされたのですか? 鈴木 ひと言で言えば「ワクワクできなくなった」。それに尽きますね。 テレビにまだ勢いがあったとき、それこそ僕がまだ20代の駆け出しだったころは、新しい番組や流行を自分たちがつくり上げ、世の中を変えていけるという面白さがありました。だからこそ、昼間は会議や打ち合わせ、収録などをやって、夜には寝ないで台本を書き上げるといった無茶なことも、平気でやれたわけです。むしろ、それが楽しかった。 でも、インターネットやスマートフォンの急速な普及によって、広告媒体としてのテレビの圧倒的な優位性が失われ、後塵を拝するようになった。予算が削られ、制約が増える中で、作り手のワクワク感もどんとん失われてしまったのです。 ──コンテンツの面白さや充実度でも、ネットフリックスなどのストリーミングサービスに水をあけられつつあります。テレビ業界が築き上げてきたビジネスモデルが通用しなくなっているということでしょうか? 鈴木 テレビのビジネスモデルの根本的な問題は「視聴率」というあやふやな根拠で、スポンサーに高額な時間枠を提供してきたことです。数百億円から1000億円以上のおカネが動くビジネスなのに、効果を検証するための数字がこれほどあやふやな広告媒体って、ちょっと考えられませんよね。閲覧数や再生回数が表れるインターネットに広告主が流れるのは、致し方ないことだと言えます。 おかげで、テレビの制作予算は大幅に削られ、いまでは放送作家のギャラが1本1万円まで下がっている番組もあると聞きました。これじゃ先が見えないし、かつてのような「ワクワクする仕事」は、難しくなるかもしれませんね。 ●スタートアップの現場には熱量の大きさと活気がある! 起業家を応援して面白い未来を作ることが現在の大きな夢 ──若いときに親の借金を肩代わりして苦しんだというお話でしたが、ほかに、おカネがらみでご苦労されたことはありますか? 鈴木 放送作家は、テレビ局などの組織に所属しているわけではなく、基本的にはフリーランスなんです。なので、クレジットカードを作ったり、部屋を借りたりするのには、とても苦労しましたね。 とくに僕の場合、親の借金を返済していたので、信用力が極端に低かった。カードは作れたけど、限度額はたった5万円なんてこともありましたね。それと、部屋は本当に借りられなかった。月に何百万円も稼いでいたんですけどね(笑)。それほど、フリーランスって信用がないものなんです。 ──信用力を高めるために、何か手を打たれたのでしょうか? 鈴木 あくまで結果論ですが、千葉の実家の近くにある不動産を買ったことが、信用力を高めるきっかけになりました。ちょうど借金の返済が終わったころ、母親から「有名な人の別荘が売りに出ている。絶対に買ったほうがいいよ」という電話があったんです。 写真家の浅井慎平さんが持っていた別荘でした。正直、不動産にはほとんど興味がなかったのですが、借金が終わって生活に余裕が出ていたし、格安だったので「買おう! 」と。 すると、面白いようにカードの限度額が上がり、部屋もすごく借りやすくなったんです。「不動産を持っているだけで、こんなにも信用力が上がるのか」と驚きました。それ以降、積極的に不動産投資を行うようになりました。 ──現在、事務所にしておられるビルも、鈴木さんご自身で購入されたそうですね。 鈴木 会社を辞めて、フリーになりたいと考える人は増えているようですが、会社の後ろ盾がなくても社会的信用が得られるように、不動産を持っておくのはいいんじゃないですかね。万が一、本業で食えなくなっても、家賃収入でしのぐことができますし。 ──事務所ビルも、鈴木さんが使うだけでなく、ほかのフロアを別の人に貸しているとか? 鈴木 いろんな面白い人たちに貸しています。シェアオフィスとして提供しているフロアもあって、そこには、ユニークなビジネスをしている人や、これから始めようとしている人ばかりです。 ビルの入居者に限りませんが、とくに面白いことをやっている人たちには、僕自身がおカネを出して事業の発展を応援してきました。いわゆる“エンジェル投資家”ですね。 ──どんな経緯で、放送作家をしながら、有望な起業家たちを応援することになったのですか? 鈴木 仲間をつくりたかったんですね。いろんな人が集まって、一致団結すると、ものすごい力になって面白いものができそうだと思ったからです。 それに気付かせてくれたのが、2011年3月11日に起きた東日本大震災でした。あのとき、テレビ局などの会社員の人たちが一致団結して、被災状況や救援の動きなどを共有している様子にチーム感を感じて「仲間っていいな」と思ったんです。そんな仲間たちを集めたかったこともあって、2012年には集いの場として、ちゃんこ鍋屋を始めました。 ──鈴木さんが、ちゃんこ鍋屋のオーナーになったのですか? 鈴木 はい。5年間で6000万円もの赤字を抱えてしまいました(笑)。年間で1200万円ずつの赤字だったけれど、人と出会い、仲間を増やすための“交際費”だと考えれば、安いものだったと思っています。 人脈はおカネや不動産には代えがたい資産です。そこから、いろんなものが生まれてくるわけですからね。だから、おカネにはまったく興味がないけれど、人脈づくりのためには積極的に投資していきたい。 ちなみに、季節によって売上高に変動があるちゃんこ鍋屋をやめて、居酒屋を始めたら、収益はトントンに。いまはその居酒屋がいろんな人たちとの交流の場になっています。 ──放送作家を辞め、起業家の支援に本腰を入れていると伺いました。具体的にどのような活動を行っているのでしょうか? 鈴木 エンターテインメントなど、主にto C(消費者)向けサービスのスタートアップに投資するベンチャーキャピタル「スタートアップファクトリー」を立ち上げています。サイバーエージェントや博報堂など、30社ほどのLP(有限責任組合員)を募って資金を集めました。間もなく投資先を決定し、運用をスタートさせます。 ──「ワクワクしなくなった」ことが放送作家を辞めた理由だったということですが、スタートアップに投資することには鈴木さんの心を躍らせる魅力があると感じたのでしょうか? 鈴木 かつてのテレビ業界と同じような熱気を感じるのは事実ですね。スタートアップの若い経営者たちは、自分がつくりたい世界を実現するために、目を輝かせながら寝ないで頑張っている。 かつて僕が『スマスマ』や『めちゃイケ』の制作に携わっていたときと、同じような仕事に懸ける熱量の大きさを感じるんです。そんな起業家たちと一緒に仕事をすると、どんな面白いことが一緒にできるのか? 想像するだけでワクワクするし、命がけでやるに値する事業だと思っています。 ──どんな目標を掲げていますか? 鈴木 サイバーエージェントの藤田晋社長のように、身ひとつで起業した人材が、日本や世界に大きな影響を及ぼすような事業を成功させることです。そんな会社を1つでも多く育て上げて、面白い未来をつくってみたいですね。ぜひ、楽しみにしていてください。
ザイ編集部
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