「小学校の昼休み有料化」も登場…景気悪化の中国で流行する「罰金経済」という信じられない風潮
■「きゅうりの千切り」をのせたことで罰金 このように、民間のレストランや公共教育において、さまざまな金銭徴収が始まっている。もっとも、レストランでの話はすでに広く見られることだが、学校での「昼休み有料化」のような徴収はそれほど多くはない。 ただし、地方政府自体も、さまざまな理由をつけて金銭を民衆から吸い取ろうとする動きがある。 2023年6月9日付の「毎日新報」(天津市政府傘下の新聞)が伝えたところによると、「上海米帆餐飲」という食品販売会社が、炒めた料理の上に生のきゅうりの千切りをのせたことで、当局から罰金を科されてしまった。 「冷菜生産販売」の経営許可を得ていなかったのが理由で、食品安全法違反で政府管理部門から5000元(10万円)の罰金を命じられた。 ■中小企業にとって重い負担 このような食品安全法違反は、「上海米帆餐飲」以外の別の食品関連会社にも頻発しており、処罰が相次いでいる。 筆者が食品関係の法律を調べたところ、たしかに法律では、食品生産の管理について細かい規定が制定されており、冷凍食品、保健食品、生の食品、菓子などいろいろ分類があって、温菜と冷菜も分けられている。 すなわち、生産者が分類項目に応じて関係当局に生産許可を取らなければならないのだ。 法律は守らなければならない。しかし、冷菜生産がメインの会社が冷菜生産の許可を取ればいいだけであって、温菜にきゅうりの千切りが少しくらい入ったからといって、法律違反で処罰されるほどのことではないだろう。 冷菜生産の許可を取るには、冷菜生産の加工設備を揃えなければならず、非常に多くの費用がかかる。こうした資金は中小企業にとって重い負担となる。
■不況になると罰金が増える 生産者の自律性に任せればいい話で、ここまで細かく厳しく監督し、重大視する必要があるのだろうか。 多くの人が、地方政府がなにかにつけ細かく罰則を科すのは、「罰金経済」が原因だと囁いている。「罰金経済」とは、罰金によって自治体や組織を維持するということだ。 実際、不況に見舞われると、罰金が目立って増える。市民の言い分には一理あるかもしれない。 中国の公務員には、日本と同じように国家公務員と地方公務員がある。 国家公務員の給料は半分を中央政府が支給し、半分を勤務地の税収入に頼る。地方公務員の給料は半分を各省の財政部門が支給し、半分を勤務地の税収入で賄う。 税収入に対して、行政収入というものもあり、手続きに関する手数料や違法行為に関する罰金などがそれにあたる。 ■収入不足を補うために「罰金」が使われている 各省や直轄市の税収入の一部は中央政府に上納しなければならないが、行政収入の部分はすべて現地政府の金庫に入り、上納する必要はない。 そのため、一部の地方では罰金経済が流行り、収入不足や地方債の償還を補うための財源にしているのである。 こうした罰金経済のうち、交通違反の罰金がいちばん多いといわれ、市民からの苦情も最多だ。とくに、交通誘導指示がわかりにくい場所には、必ず監視カメラがどこかに隠されており、うっかり違反をすると、数日後に罰金通知が送られてくる。 わかりにくい指示で、わざと違反を誘発し、罰金を取ろうとしていると、憤る市民も少なくない。 そして現在は、食品が狙われている格好だ。 ---------- 邱 海涛(きゅう・かいとう) ジャーナリスト 1955年中国上海生まれ、上海外国語大学日本語科卒業。父親は国民党による台湾人弾圧「228事件」をきっかけに、台湾から中国へ逃れており、台湾にルーツを持つ。1985年に来日し、慶應義塾大学および東京外国語大学で学んだ後、日本企業で10年間勤務する。1995年、日本に帰化。現在、中国と日本の間で出版や映像プロデューサーとして幅広く活動中。著書に『中国五千年性の文化史』(徳間文庫)、『ここがダメだよ中国人!』『中国大動乱の結末』『中国でいま何が起きているのか』(以上、徳間書店)、『中国セックス文化大革命』(徳間文庫カレッジ)、『チャイニーズ・レポート』(宝島社)など多数。 ----------
ジャーナリスト 邱 海涛