温泉ライターが語る 北海道でぜひ行きたい「引力の強い惑星のような秘湯」
【丸駒温泉旅館】支笏湖の大自然に抱かれて湧く天然露天風呂へ
『女ひとり温泉をサイコーにする53の方法』の永井千晴さんにおすすめの「紅葉の秘湯」を聞いた。 黄緑色の食塩泉が満ちる露天風呂付き大浴場 晩秋の北海道が好きだ。初雪を迎えるまでのわずかなこの季節は、空気が澄んでいて気持ちいい。新千歳空港に降り立ち、レンタカーを借りて向かったのは支笏湖(しこつこ)である。 車で湖畔沿いを走っていると、ついつい水面に映る赤黄色の木々や、フロントガラスの向こうに流れていくモミジに気を取られてしまう。湖に面したホテル群を抜け、細い道路をしばらく辿った先に、お目当ての「丸駒温泉旅館」はあった。 丸駒温泉旅館は、2021年に民事再生法の適用を申請し、経営体制が一新した。私は民事再生前の姿を知らない新規客だが、古さを感じさせない、落ち着いたリゾート温泉宿という印象を受けた。リニューアルに伴い、宴会場やカラオケなどの団体客向けの設備をなくし、客室は壁紙を張り替え、畳に敷いていた布団をローベッドに一新したそうだ。 チェックインを済ませ、大浴場へ。丸駒温泉旅館には露天風呂付きの大浴場と湖畔の天然露天風呂があり、それぞれで源泉が異なる。大浴場は鉄臭を感じる黄緑色の濁り湯が注がれていて、すべての湯船がレイクビュー。晩秋の冷たい風に当たりながらつかる濁り湯はたまらない。塩分豊富で保温効果が期待できるため、まずは大浴場で十分に体を温めていく。脱衣所から続く階段を降りると、いよいよ天然露天風呂だ。
湯上がりの日本酒と夕食が体に染みる
念願の天然露天風呂に体を沈め、まずはたっぷりとした深い湯船、熱くも冷たくもない「不感温度」を楽しむ。やがて静寂が訪れ、トプトプと寄せては返す湖の波の音、ピチチと湯底から温泉の生まれた音だけが響いた。時折風が吹くと、紅色のモミジが湯面に落ちてくる。支笏湖の大自然に抱かれた形で湧くこの温泉に、こころとからだが溶けていくのがわかった。ほのかに香る芒硝(ぼうしょう)が、違う惑星に来たような非日常感をもたらす。砂利敷きの湯底から湧く温泉は、うっとりするほど新鮮で透き通っていて美しかった。 美しい湯に包まれてほぐれた心身に、夕食はよく染みた。オリジナルの日本酒「初太郎(はつたろう)」はすっきり飲みやすく、自家製のギョウジャニンニクや、お造りのもっちりしたホタテ、濃厚なボタンエビとよく合った。 滞在中、もう充分つかったという感覚に至らず、何度も露天風呂に足を運んでしまった。当時の滞在メモには「引力が強すぎる」と残っている。私にとってあの露天風呂は、惑星のような秘湯。本能で心身が求めるような特別感が、そこにはあった。 文・写真/永井千晴ほか プロフィール ながい・ちはる 1993年、神奈川県生まれ。温泉ライター。一般企業に勤めながらSNSで推しの温泉を紹介している、市井の温泉好き。足元から湧く温泉と、ぬるい温泉を愛している。著書に『女ひとり温泉をサイコーにする53の方法』(幻冬舎) 湖畔の宿支笏湖 丸駒温泉旅館 ☎0123・25・2341 住所:千歳市幌美内7 客室:全55室 温泉:ナトリウム・カルシウム―塩化物・炭酸水素塩・硫酸塩泉 料金:2人1室利用 平日1万9650円~、休前日2万1650円~ 1人1室利用(通年可)平日3万1650円~、休前日3万3650円~ 日帰り入浴:10時~14時/火・水曜休/1200円 交通:新千歳空港からバス1時間の支笏湖バスターミナル下車、送迎20分(要予約)。または千歳線千歳駅からバス44分、以下同じ/道央道千歳ICまたは苫小牧フェリーターミナルから38㌔、新千歳空港から42㌔