WAT'S GOIN' ON 〔Vol. 12〕「信頼」と「想い」が結実した青森ワッツの起死回生劇
常勝だけがプロスポーツチームの存在意義なのだろうか…既存のプロスポーツ観に逆らうようにBリーグ誕生以前から活動を続ける不思議なプロバスケットボールチーム《青森ワッツ》の魅力に迫る。台湾プロバスケットボールリーグの新竹ライオニアーズとのグローバルパートナーシップ締結など、アリーナに収まらない活動を開始した青森ワッツが地元青森にどのような波及効果をもたらし得るのか、また、いかにしてプロスポーツチームのあり方を刷新してゆくのか、その可能性を同チームの歴史とともにリポートする。〔全13回〕
ふたり
だが、いくら会長やANEWホールディングスが力を込めようとも、実際にコートの上で戦うのは彼らではない。戦うのは、選手とスタッフとコーチだ。2022年の年明け、まだ正式な契約には至っていなかったが、ANEWホールディングスの経営参画の可能性が見えてきた頃、下山からワッツの未来を託された北谷は、一足先に大きな改革を始めていた。 「2シーズン連続で、地区の最下位でしたから。ここで2度あることは3度ある、をやったら、本当にブースターの皆さんの心が離れてしまう、地元の皆さんの愛着を汚してしまう。心の底から危機感がありました」(北谷) 関係各所からの批判を覚悟の上で、北谷は肚を決めた。2022-23シーズンに向けて、マネジャー以外は、選手もスタッフもコーチもすべて入れ替え、新しいチームに生まれ変わる。 「けれど、青森ワッツのバスケットのスタイル、流儀は絶対に変えません。そのためには、ヘッドコーチよりも、何よりも先にふたりが必要でした」(北谷) チーム創設10周年の記念すべき2022年、その1月1日。北谷は、ふたりのポイントガードに電話を入れた。會田圭佑(当時は京都でプレー)と池田祐一だ。 「ふたりは、もともとワッツでプレーしてくれていましたが……まあ、言うなれば、私と下山さんが器としてのワッツを守るために制限せざるを得なかった部分で、互いに未練を残したまま、袂を分かっていました。でも、やっぱりワッツのバスケットで勝つためには、ふたりの力が必要なんです」(北谷) 北谷は、下山に覚悟を告げた。 「まだ、私は会長を務めていましたが、ここで勝負に出なかったら、どうなっていたか。今となっては恐ろしいです。でも当時は、これまで守ってきたルール、つまり財源をどう扱うかなどですが……ワッツの状況では、ルールを破れるのはたった1度だけなんです。もしも勝てなかったら、それこそ進行中だったANEWホールディングスの経営参画だって、ご破算になっていたかもしれません」(下山) それでも、下山は北谷に懸けた。 「會田と池田は、私に懸けてくれました。それで、もう迷いもなくなったので、あとは高原を口説くだけ」(北谷)