『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』ゲーテの「ファウスト」とも共振するシリーズ最大の悲劇
ゲーテ「ファウスト」との共通性
『シスの復讐』のインタビューで、ジョージ・ルーカスは古典悲劇「ファウスト」に言及している。1808年に第一部、1833年に第二部が発表されたこの小説は、ゲーテがその生涯をかけて執筆した畢生の大作だ。 「この物語では、悪魔と契約を結ぶことになる。(パドメが)三途の川を渡ってしまうのを阻止したいんだ。そのためには神の元へ赴く必要があるが、神々は助けてくれない。だからアナキンは黄泉の国へ行き、闇の帝王に彼女を救う力を乞うんだ。「ファウスト」だよ。アナキンはその力を欲しているが、それは基本的に悪いことなんだ」(*1) 人生に絶望した主人公ファウスト博士は、この世で体験し得るすべての享楽と引き換えに、自分の魂を悪魔に売り渡す契約を結ぶ。若さを取り戻した彼は、やがて美しい娘グレートヒェンと恋に落ちるが、我が子を手にかけたことで彼女は死刑に処せられてしまう。最愛の人を失い、悲嘆に暮れるファウスト。 『シスの復讐』もまた、愛するパドメが出産で死亡することを予知夢で知ったアナキン・スカイウォーカーが、彼女を救いたい一心からダース・シディアスの門下となり、フォースの暗黒面に堕ちてしまう物語だ。確かにアナキン=ファウスト、パドメ=グレートヒェン、ダース・シディアス=悪魔と考えると、アウトラインがよく似ていることに気付かされる。クライマックスでオビ=ワン・ケノービとアナキンが一騎打ちをする火山惑星ムスタファーは、この世の煉獄を表しているのだろう。 「ファウスト」は、実在したといわれる錬金術師ヨハン・ゲオルク・ファウストの伝説を下敷きにした、と言われている。その生涯は謎に包まれているが、最後は実験中に爆死して、その五体はバラバラになったんだとか。アナキンは四肢を喪失してダース・ベイダーとして生まれ変わるが、それもまたヨハン・ゲオルク・ファウストから着想を得たのかもしれない。 『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(77)は、フランク・ハーバートの「デューン」やJ・R・R・トールキンの「指輪物語」などのSF、ハイファンタジーを参照していた。一方、オペラのような荘厳さをたたえた『シスの復讐』は、ゲーテの古典悲劇に通じている。そこに、古き良きスペースオペラの面影はない。「ファウスト」と共振することで、『シスの復讐』は漆黒のオペラとして独自の文体を獲得し、強烈な光を放っている。