『ヒットマン』恋に落ちた大学教授、恋にもがく偽の殺し屋
『ヒットマン』あらすじ ニューオーリンズで2匹の猫と静かに暮らすゲイリー・ジョンソン(グレン・パウエル)は、大学で心理学と哲学を教える傍ら、地元警察に技術スタッフとして協力していた。ある日、おとり捜査で殺し屋役となるはずの警官が職務停止となり、ゲイリーが急遽代わりを務めることに。これをきっかけに、殺人の依頼者を捕まえるためにさまざまな姿や人格に変身する才能を発揮し、有罪判決を勝ち取るための証拠を引き出し、次々と逮捕へ導いていく。 ところが、支配的な夫との生活に追い詰められた女性・マディソン(アドリア・アルホナ)が、夫の殺害を依頼してきたことで、ゲイリーはモラルに反する領域に足を踏み入れてしまう。セクシーな殺し屋ロンに扮して彼女に接触。事情を聞くうちに、逮捕するはずの相手に対し「この金で家を出て新しい人生を手に入れろ」と見逃してしまう……!恋に落ちてしまったふたりは、やがてリスクの連鎖を引き起こしていくことに――。
14才のボクが、スターになるまで。
『トップガン マーヴェリック』(22)では自信満々な凄腕パイロット。『恋するプリテンダー』(23)ではイケてる金融マン。『ツイスターズ』(24)では竜巻を追いかけるタフガイ。この1、2年で、グレン・パウエルはスターダムの階段を急激に駆け上ってきた印象がある。 エドガー・ライト監督の『バトルランナー』リメイク、A24配給のサスペンス・スリラー『Huntington』、J・J・エイブラムスが久々に現場復帰する『Acorns』など、待機作も期待大なラインナップ。かつてキャスティング・ディレクターから「『CSI:科学捜査班』で死体役を演じられたらラッキー」(*1)と言われた遅咲きの俳優は、トム・クルーズやスティーヴン・スピルバーグといった超大物との仕事を経て、今やハリウッドの新しい顔となっている。 「少なくとも15年間ロサンゼルスで苦労してきた男にとって、ビジョンボード(筆者注:自分の夢や目標を書き込んだボードのこと)に載っているような人たちが今や私の友人であり、将来一緒に仕事をするかもしれない人たちであるということは、かなりクレイジーなことだよ」(*2) と、グレン・パウエル自身も状況の変化に驚きを隠せない様子。そんな彼を、およそ20年にわたって見守ってきた映画監督がいる。『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(95)や『スクール・オブ・ロック』(03)で知られる鬼才、リチャード・リンクレイター。最初の出会いはグレン・パウエルが14歳の時だったというから、リンクレイターの作品タイトルを引用するならば、『6才のボクが、大人になるまで。』(14)ならぬ、『14才のボクが、スターになるまで。』といったところか。 『ファーストフード・ネイション』(06)、『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(16)、『アポロ10号 1/2: 宇宙時代のアドベンチャー』(22)と、二人は断続的に、しかし決して途絶えることなく、コラボレーションを続けてきた。そして4回目となるタッグ作が、『ヒットマン』(23)。グレン・パウエルが演じるのは、ニューオーリンズで心理学と哲学を教えている大学教授ゲイリー・ジョンソン。教鞭をとる傍ら、バイトとして警察のおとり捜査にも協力しているという、超ハード二重生活を送っているキャラクターだ。 思わず、中学校の新任教師として奮闘する傍ら、地球防衛軍UGMの隊員として日々地球の平和を守っている設定の特撮ドラマ「ウルトラマン80」を思い出してしまったのだが、まあそんなことは置いといて、『ヒットマン』が物凄いのは、このゲイリー・ジョンソンが実在の人物であること。彼はクライアントから殺人を依頼される偽の殺し屋を演じ、実際の殺人事件を未然に防ぐ役割を果たしていた。 グレン・パウエル×リチャード・リンクレイターのコンビは、嘘みたいな本当の話をベースにして、痛快無比なクライムコメディを仕立てあげたのである。