どうする?施設一択の多忙な50代息子と拒む寝たきりの母 実はまだある第三の選択肢
認知症介護指導者の上村尚之さんが、高齢者や介護の様々な悩みに答えます。 【関連】特養、老健、ホーム…種類が多すぎて分からない! 親に最適な住まいの選び方
Q.同居している母の持病が悪化し、ほぼ寝たきりの状態に。私は多忙なので、施設に入居してもらうしかないのですが、母は入居を拒否しています。無理に入居させられた人は、入居後に暴れたり認知症になったりして、周囲に迷惑をかけるものでしょうか(50代・男性)
A.必ずしもそうなるとは限りませんが、「帰らせろ」と暴れたり、認知症のような症状が出たりすることは確かにあります。無理に入居となる場合、本人には何も知らされず、急に連れてこられるケースが多いので、当然のことだと思います。誰でも、ある日突然施設に入居させられたら、パニックになって、どうにかして施設から抜け出して家に帰ろうとするのではないでしょうか。 家に帰ろうとするのは、その人にとって家が落ち着く場所であり、安心できる場所だからです。だから私たちスタッフは、利用者の方にとって施設がそうした場所だと感じてもらえるように努めます。例えば居室を自宅の雰囲気と似たような環境にしたり、利用者の方の話に耳を傾けたり丁寧にケアをしていきます。何かしらの役割を担ってもらい、ここが自分の居場所だと感じてもらえるような工夫もします。一方的に「もう帰れないんですよ」と言って説得するようなことはしません。 そうすると一週間くらいで施設になじんできて、自宅に帰ろうとするようなことはおおよそなくなります。ただし、それは施設の力量に左右されるところも大きいと思います。施設の力量を事前に判断するのは難しいことですが、家族が自由に面会しやすいということが1つの目安になります。「家族の顔を見ると家に帰りたくなるから面会に来ないでほしい」という施設もあるようですが、本人は家族が来ないと「見捨てられた」という思いが強くなり、精神的に追い込まれることがあります。確かに家族の顔を見て「帰りたい」と言うことはあるかもしれませんが、純粋に会えて嬉しいという気持ちもあるはずです。 そもそもご本人の気持ちを考えると、だますように連れて行くのは避けたいですよね。私の場合は入居予定の方が拒否していると聞いた場合、まずご本人と会って話をしてみます。入居を拒否する理由を聞いたうえで、最初は顔見知りになることを目指します。次にケアマネジャーと一緒に施設の見学に来てもらい、雰囲気を知ってもらいます。そんなふうに関係性を築いていくうちに、入居してもいいと感じてもらえることもあります。 気になるのは、お母さんが入居を拒否しているという点です。なぜ入居を拒否しているのでしょうか。お母さん自身は入居の必要性を感じていないのかもしれません。多忙な相談者との暮らしに不安を感じていたら、そこまで入居を拒否しないと思うからです。 相談者は、お母さんに最後までお母さんらしく、幸せに暮らしてほしいと願っているはずです。そうなると第一に優先してほしいのは、お母さんの気持ちです。どのような病気で“ほぼ寝たきりの状態”になっているのかがわからないので、具体的な提案をしにくいのですが、このまま在宅生活を続けると命に関わるというようなことがない限り、介護保険サービスを利用して在宅での生活は続けられると思います。命に関わるというのは例えば、在宅だと食事ができない、薬を過剰に飲んでしまうといったことです。お母さんが在宅生活を続けることでどんなことが心配なのかを具体的に書き出してみて、それをケアマネジャーに伝えれば、相談者に負担がかかることなく在宅を続けられるような方法を提案してもらえるかもしれません。 また、相談者はお母さんの終の棲家としての施設を考えているかもしれませんが、お母さんの病気や状態によっては老健(介護老人保健施設)に入居するという選択肢もあります。老健は在宅復帰を目指す施設で、医療ケアやリハビリのサービスが充実しています。家に帰るということが約束された状況なら、お母さんも納得して老健でリハビリに励むかもしれません。 お母さんはなぜ入居したくないのか、相談者は在宅介護の何が心配なのか。ケアマネジャーに相談しつつよく話し合い、お母さんが幸せに暮らせる道を見つけてほしいと思います。
【まとめ】ほぼ寝たきりになった母。無理に施設に入居させると暴れたり、認知症になったりする?
・「帰らせろ」と暴れたり、認知症のような症状が出たりすることはあるが、施設側の丁寧なケアがあれば、次第になじんでいく ・できれば無理に入居させず、まずは施設のスタッフと顔なじみになるなど段階をふむ ・お母さんの気持ちを最優先に考えて、入居を拒否する理由を聞き出す ・終の棲家としての施設だけではなく、老健や在宅などケアマネジャーとともにほかの選択肢も改めて検討する ≪お悩みの内容については、介護現場の声を聞きながらなかまぁる編集部でつくりました≫
上村尚之