ひろゆき、中野信子と脳を科学する① 中野信子が脳科学者を目指したワケ【この件について】
ひろ 最近話題の「境界知能」(平均的ではないが知的障害でもない、IQ70以上85未満の状態)の人って約7人にひとりいるといわれるじゃないですか。そういう人は学校にいなかったんですか? 中野 いなかったですね。 ひろ 中学から進学校に通っていたんですか? 中野 私立の中学校に通っていました。私は成績が良かったので授業料が安く済むという理由でそこを選びましたが、同級生は比較的裕福な家の子が多かったです。 ひろ というと、ある程度経済的に恵まれた家庭の子供たちが集まっていて、多様性の少ない環境だったわけですね。そんな中にひとりだけ中野さんという変わった子がいたと。 中野 もっと詳しく言うと、ハイコンテクストのコミュニケーション(言葉以外のコミュニケーション)を小さいうちからできる人たちが集まっている学校だったと思います。 ひろ 空気が読めるのはもちろん、相手の表情や声のトーンからも感情が読める、つまり、コミュ力も抜群に高い人たちが周りにいたわけですね。 中野 そういう人たちに囲まれてしまった感じです。 ひろ 親が金持ちだと、いろんな大人と交流する機会が多くなるじゃないですか。で、「この人には逆らってはいけない」「この人には生意気を言ってもいい」といった空気を読む力が身につきやすいですよね。中野さんみたいな特性を持つ人は、あまり偏差値の高い学校に行かないほうがいいのかもしれませんね。小学校は公立だったんですよね。そのときも少し浮いていたんですか? 中野 はい。茨城県の小学校でした。周りの子は農家のお子さんが多くて、体が頑健で身体能力も高く、勉強よりも外で遊ぶことを優先するような環境でした。私はそこに東京からいきなりやって来た。しかも言葉遣いも少し違う。確かに浮いていたと思います。 ひろ つまり、小・中・高と、常にエイリアンとしてのポジションだったんですね。 中野 そうなんです。だから「あの子は成績はいいけどちょっとおかしいね」とか「将来、犯罪者になるかもしれない」なんて言われたりもしました(笑)。 ひろ マジですか。 中野 はい。歴史小説などで勝った武将が、敵方の女性や子供の処遇を決める場面があるじゃないですか。ああいうときは、女子供であっても容赦なく処刑するほうが将来の禍根を絶つことができますよね。 ひろ 恨みを買わないですからね。源氏は平治の乱で平家に負けましたけど、源頼朝は子供だったため処刑を免れました。んで、その後に源頼朝が平家を滅ぼした。 中野 敵対する者は全員殺してしまうほうが、長期的に見て禍根を残さず、多くの人に迷惑をかけない。それが最も合理的な解決策に思えるんです。 ひろ 合理的に考えるとそうなんですが、普通は「女性や子供まで殺すのはかわいそう」だと考えますよね。 中野 まさに。なので、「情がない人だ」というような評価をされ、それが高じて「犯罪者になる」と言われたのではないかと思います。 ひろ 多くの人がふたつの方向性をごっちゃに考えてしまうんですよね。合理性で考えた場合の最適解と、感情的な側面、つまり「殺される側の気持ちになったら嫌だよね」という考えは別じゃないですか。中野さんはそれを分けて考え、問題に対する最適解を導き出そうとしていたわけですよね。 中野 そうです。もちろん、殺される側の気持ちが想像できないわけではありませんよ。別の問題として提示されれば、その気持ちを想像することはできます。ただ、その場面では「どちらがより良い判断か」という点に焦点を当てていたんです。 ひろ つまり、勝ったほうの武将の立場に立って考えていたわけですよね。 中野 そのとおりです。 ひろ 中野さんの思考プロセスを聞いていると、典型的な理系思考ですね。 中野 私もそう思います。こういった経験も私が学者、特に脳科学者になろうと決心したきっかけのひとつになりました。 *** ■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など ■中野信子(Nobuko NAKANO) 1975年生まれ。東京都出身。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学大学院博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに勤務後、帰国。主な著書に『人は、なぜ他人を許せないのか』(アスコム)など 構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾