ファンなら一度は足を運んでみたい歌舞伎発祥、京都ならではの顔見世興行
京都の顔見世興行ならではの「花街総見」
京都で歌舞伎を見る、それも師走に南座で顔見世興行を見る楽しみには京都ならではのイベントがあります。それが花街総見(かがいそうけん)です。京都には五つの花街(はなまちではありません。“かがい”と読みます)がありますが、花街総見とは、舞妓さんや芸妓さんが揃って歌舞伎を見に行くことです。12月のはじめ頃に「今日は祇園甲部」とか、「本日は上七軒」といった具合に花街ごとに日を分けて、それぞれの花街の芸舞妓さんが見に行くのです。 彼女たちにとっては、芸を学ぶ場であり、またひいきの役者さんを応援する場ともいえるのでしょう。桟敷席に芸舞妓さんが並ぶ様子はなかなか奇麗なものです。私も祇園甲部の花街総見のときに一度観にいったことがありますが、それはあでやかな光景でした。 また、舞妓さんは髪に花かんざしを着けています。この花かんざしは月によって異なります。例えば1月は松竹梅とか、9月は桔梗といった具合に四季折々の草花をあしらったかんざしを着けますが、12月のかんざしは「まねき」です。まねきというのは、看板のことで、南座の建物の正面に出演する役者さんたちの名前を書いたものです。舞妓さんが着ける「まねきの花かんざし」は、もともとは何も書かれておらず、自分の好きな役者さんに名前を書いてもらう(サインしてもらう)のだと言います。おそらく歌舞伎役者さんは公演の間、花街にも行くでしょうから、お座敷で書いてもらうこともあるのでしょうね。そういう光景を想像すると何とも艶やかな風情です。 このように京都ではほかの場所では味わえない歌舞伎の楽しみ方もあるようです。それに俗に「江戸の荒事、上方の和事」と言われるように、京の歌舞伎は明らかに江戸のそれとは芸風が異なります。明治維新以後、多くの文化・芸能分野において名家や名人といわれる人たちが東京へ移ってしまいましたが、能の金剛流や狂言の茂山千五郎家などのように依然として京都を本拠地としているところもあります。歌舞伎においても坂田藤十郎さんや片岡仁左衛門さんのような素晴らしい上方の芸を見せてくれる役者さんはいます。毎年の顔見世興行では藤十郎さんも仁左衛門さんも大活躍しています。 今年はもう今からでは顔見世の切符は取りづらいかもしれませんが、いずれテレビでも放映されることでしょう。ただ、できることなら一度は歌舞伎発祥の地である京都の南座へ足を運ばれることをお勧めしたいと思います。 (経済コラムニスト・大江英樹)