山下達郎やAORを愛するUK4人組、PREPが語る「懐かしくも新しい」ポップスの作り方
目指しているのは「レトロ」ではなく「モダン」
―アルバム全編に渡って、キック(バスドラム)の音が、みなさんが参照しているであろう過去のポップスに比べて迫力のあるアタック感を伴っているように聴こえるのですが、これにはどんな意図があるんでしょうか? ギョーム:素晴らしい質問だし、ニッチな視点だね(笑)! ただ、答えはルノーに訊くべきだね。彼が僕のプレイを録音したから。アルバムのミキシングも彼がやってくれたんだ。彼はビジョンを持った人だし、こだわりが強いから、キックの音については僕というより彼の意向なんだよね。でも、君がそういう感想を持ったのは面白いね。と言うのも、僕はいつも彼に「音がデカすぎる」と言われていたんだ。実際はすべて静かに叩かないといけなかった。 ―なるほど、プレイはなるべくフラットに録って、ミックスの段階でメリハリをつけたかったということなのかもしれないですね。 ギョーム:それはあり得るね。ダイナミクスがわかりやすくなるようにしてくれたのかもしれないな。 トム:僕たちの音楽には常にヒップホップのサンプリングの影響があるんだよね。それもキックのサウンドに関係しているかもしれない。 ギョーム:バンドを始めたその日から僕とダンが決めていることがあってさ。それは、トラディショナルなサウンドやレトロなサウンドをそのまま目指すのはやめて、モダンなアルバムと同様の音を目指そうということなんだ。世の中には、トラディショナルなヨット・ロックのサウンドを踏襲している素晴らしいバンドがたくさんいる。でも僕たちがそうしたいと思ったことはないんだ。 リウェリン:僕があるバンドとスタジオに入ったときのことだった。僕たちと割と似た感じのシーンで活動しているバンドなんだけど、アナログのシンセサイザーを買ったって言って、誇らしげに見せてくれたんだ。「素晴らしい機材だよ。これでPREPみたいなサウンドを手に入れられる!」なんて言っていた(苦笑)。それで、「僕たちそういうのを1つも持っていないんだ。大体全部プラグインだし」と返したら、すごくムッとしてたね(笑)。「えっそうなの? ハウス・ミュージックを作るような感じで作ってるの?」と言われた。僕たちはアナログ機材のつまみをちょっとずつ調整して音を作ったり、ちゃんとチューニングできるようにウォームアップしたりとか、そういうタイプじゃないんだ。誰もそんな面倒なことはやる気がない(笑)。 ―そういう考えは、元々エレクトロニック・ミュージックをやっていたというリウェリンさんのキャリアにも関係しているのでしょうか? リウェリン:たしかにそういう経験が作業にも活かされているんだと思う。ギョームもAbletonを使っているしね。僕たち全員がこよなく愛する昔ながらのソングライティングの要素を、現代的なプロダクション・スタイルといかに組み合わせるかということに興味があるんだ。 ―モントリオール在住のアノマリーさんとのコラボレーションもまさにそうだったと思いますが、地理的に離れているアーティストともスムーズに共同作業を行うことができたり、クイックな発信ができたりというのも、現在のデジタルテクノロジーの発展の利点ですね。 リウェリン:そうだね。初めてトラックを公開したのもSoundCloudだったしね。数年前はHype Machineがとても重要な存在だった。ブログやHype Machineに載せることによって、すぐにオーディエンスをグローバルに獲得することができたんだ。典型的なインターネット・ストーリーだよね。それ以前の世界ではありえなかったことだから。ミュージシャンにとってはいいことだと思うよ。一方で、情報があまりに飽和状態にある場合、うまくいかないこともあるけどね。 ダン:さっきの話題とも関係するけど、テクノロジーはいつの世も音楽の作り方に直接影響する。初めて音楽が電気で録音されるようになった頃を考えてみても、当時は1本しかマイクがなかった。ワックス・シリンダー(蝋管)か何かがあって、ミュージシャンがマイクとの距離を自分でとっていた。今の時代、レコードはコンピューター上で作られている。オーバーダブとか、断片を1つずつレコーディングしたりとか、それをレイヤーにしてまとめるとか……マイクとかアンプとか、本物の楽器は、使われることがどんどん少なくなっている。それに、音楽界でのコラボの大半は、ファイルを送り合って、行ったり来たりさせることによって行われているんだ。そうするとサウンドも変わってくるんだよね。PREPはいつもモダンなやり方で音楽を作ってきた。そう考えれば、70年代に作られたものと同じ音になることはないよ。当時とは違う環境で作られた訳だからね。 ―片や、あなたたちの音楽には、決して「デジタル」には還元できない人間的なテクスチャーが溢れていると感じます。このように高度に情報化した世界で、人間的なフィーリングを音楽に込めていくことの意味について、どのように感じていますか? リウェリン:モダンなやり方でやると人間的なテクスチャーが薄れる危険は大いにあるよね。今昔のヒップホップ……例えばメンフィスのヒップホップを深く聴きこんでいるんだけど、すごく興味深い。初期はMPCなんかのドラム・マシーンを使っていて、多分今にしてみればおもちゃみたいな機材なんだけど、とにかく素晴らしいフィーリングがあるんだよね。「オーガニック」という言葉が正しいかどうかはわからないけど。それが90年代の初めくらい。その後はみんなコンピューターを使うようになって2000年代に突入するんだけど、そうすると僕にとっては色んなものが失われてしまうというか、いかにもコンピューターで作りましたみたいな感じになってしまう。僕たちはいつも……まぁ、ミュージシャンはみんなそうだとは思うけど、常に人間らしいフィーリングを音楽に取り込もうとはしているんだ。重要なことだね。 それからドラムス。たくさん加工はするけど、99%は生のドラムスを使っているから、人間的なフィーリングを得るのに役立っていると思うよ。 トム:それから、僕たちが全員インストゥルメンタリストなのも大きいと思うね。全員子供の頃から楽器をやっていたんだ。バンドだったりオーケストラだったり、他人のゲストだったり。だから音楽がどう作用するかとかについての共通認識があるんだ。他人とのコミュニケーションを通じてピッチとかを決めていく。だからコンピューターを使っていても人間的なマインドセットで作業しているんじゃないかな。 あと、ライブを想定しながら曲を作っているというのも大きいと思う。バンドとしての僕たちにとってとても重要な部分だから。不思議なもので、バンドを始めたときは、これがライブ・プロジェクトになるなんて思ってもみなかったんだけどね。ステージでやる日なんて来ないと思っていたんだ。プレイするからには自分たちの指や声を使ってやりたいと思っているよ。ライヴで他人とプレイしていると、特定のグルーヴにロックオンされるときの感触とかがわかるからね。その理解をもってコンピューターに向かっているんだ。そういう経験がない状態で臨むのとは違うと思うよ。 ―みなさんのライブを日本で再び観られるのを楽しみにしています。 一同:ありがとう、僕たちも是非また日本に行きたいと思っているよ!
Yuji Shibasaki