山下達郎やAORを愛するUK4人組、PREPが語る「懐かしくも新しい」ポップスの作り方
ロンドン発のバンド、PREP(プレップ)による2ndアルバム『The Programme』が、7月の発売以来ロングセラーを記録している。ヨット・ロック(AOR)やR&B、シティ・ポップ等をベースに「懐かしくも新しい」サウンドを聴かせる彼らは、特にアジア圏で大きな人気を得ており、本作の好評をきっかけとして、ここ日本でもより一層注目度が高まっている。バンド結成のいきさつから、音楽的コンセプト、エディ・チャコンやタイのプム・ヴィプリットら多彩なゲストを迎えた新作の内容について、バンドメンバー4人へ話を訊いた。 【画像を見る】ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高の500曲」
スティーリー・ダンを通じて意気投合
―バンド結成の経緯を改めて教えて下さい。 リウェリン:僕たちは全員ロンドンを拠点にしていて、僕とギョームがパブで出会ったのがそもそもの始まりだった。 その頃僕はバンドを始めたいと思っていたんだ。エレクトロニック・ミュージックに携わってきたけど孤独感を覚えることもあったしね。話し始めたらすぐに意気投合した。スティーリー・ダンをはじめ、夢中になっているミュージシャンが一緒だったりしてね。 それからダンにソーシャルな形で出会った。彼のスタジオを訪れる機会があったんだ。ダンとも同じような話になって、何とも不思議な偶然だったよ。 ということで、3人で集まってみて、何が起こるか様子を見ようという話になった。そうしたら、初日からいきなり「Futures」という曲のアイデアがまとまったんだ。 ―トムさんの加入はどのようにして? ダン:その頃、僕は色んなソングライティング・セッションに参加していたんだ。僕がインストゥルメンタルのパートを担当して、シンガーやアーティストやソングライターがやってくるとコラボしていた。トムはそのうちの1人だったんだ。トムはとてもいい声の持ち主だったから、トライアウトしてみようと思ったんだ。そしてオーディションに受かったというわけさ(笑)。 トム:オーディションだって僕は気付いていなかったけどね(笑)。リウェリンがスティーリー・ダンの名前を出したのは興味深いね。いつも自分たちの影響がどこから来たのか、PREPが生まれたきっかけになったのは何かを考えるんだ。色んなアーティスト名が出てくるけど、いつもスティーリー・ダンの名前に帰ってくる。今まで色んな人が僕をスティーリー・ダンに夢中にさせようとしてきたけど、僕は一度も理解できていなかったというか、かつては特に気に入ってもいなかったんだ。 ―あれ、そうだったんですか。 トム:うん。僕にとってはクリーンすぎる気がしてさ。若い頃はもっと粗削りな感じのサウンドが好きだったからね。でもダンにPREPの話を持ち掛けられた時、スティーリー・ダンの曲をいくつか聴かせてくれたんだ。フレッシュな耳で聴いてみたら、すっかり惚れ込んでしまったよ。今度は完全に理解できたし、大好きになった。 ―スティーリー・ダンはみなさんにとってそこまで大きな存在なんですね。 ギョーム:そうだね。僕たちが特に影響を受けたスティーリー・ダンのサウンドは、彼らのキャリアの後半くらいの作品じゃないかな。『Aja』(1977年)とか『Gaucho』(1980年)とか。 ―スティーリー・ダンもそこに含めて語られることがあると思うのですが、いわゆる「ヨット・ロック」というジャンルとの出会いはどんなものだったんでしょうか? リウェリン:すごくヘンな出会いだった気がするよ。ギョームとダンが「ヨット・ロック」という用語を使っていたんだ。僕はそれまで聞いたこともなかったから「何だそれ?」と思ってね。『ヨット・ロック』という名前のコメディ番組がネット上にあって、オマージュでありながら、70年代のその手のミュージシャンに関する妄想だったり嘘だったりを流す番組だったんだ。 ギョーム:僕は14歳の頃からその手のレコードをずっと集めてきた。僕はドラマーだから、そういうレコードに参加しているセッション・ドラマーに夢中でさ。ジェフ・ポーカロ、スティーヴ・ガッドとかね。 ヨット・ロックと呼ばれているジャンルで好きなアーティストといえば、ボズ・スキャッグス、マイケル・マクドナルド……いくらでも名前を挙げられるね(笑)。けれど、スティーリー・ダンこそが間違いなく、ヨット・ロックの山の頂点にいると思っているよ。 ―そのヨット・ロックと同時期に興隆したのが日本のシティ・ポップですが、特に好きなアーティストを教えていただけますか? トム:それこそ沢山いるけど……そう、ダンはいつも山下達郎のレコード・ジャケットを壁に飾っているんだ。 ダン:彼はシティ・ポップのサウンドを象徴するような人だからね。すごくスムースでファンキーなのに歌い方がすごく独特というか、僕たちの解釈では、日本の伝統的なスタイルに近いんじゃないかな。トムみたいな人がこのバンドのシンガーなのも、そういう考えが裏にあるんだ。僕たちのシンガーはスティーヴィー・ワンダーやダニー・ハサウェイみたいなR&Bシンガーでいてほしくない。アジアの人たちが僕たちのサウンドを理解してくれたのもそれがあると思うんだよね。 ギョーム:山下達郎は、アルバムのプロダクションも特別だと思うんだ。楽器の演奏面ではアメリカのR&Bミュージックを参照してはいるけど、ドラムのサウンドとかオーケストレーションなんかはとても個性的だと思う。僕たちも大きな影響を受けているよ。元々僕はカシオペアの1stアルバムを15歳のときに買って以来、日本のアーティストにはずっと親しみを持っていたんだ。 リウェリン:そうだね。「シティ・ポップ」という言葉を知る前に僕たちが聴いていたのは、カシオペアとかT-SQUAREとか、フュージョン系のアーティストが多かったかな。今僕たちがやっている音楽とは少し違うけど、何らかの形でDNAに組み込まれていると思う。 ギョーム:シティ・ポップは素晴らしい音楽だけど、厄介な部分もあるんだよね(笑)。なぜって、特別なレコードがあまりに多すぎるんだから!値段もすごく高いし、レアだし…全部手に入れたいよ(と拳を握る)(笑)! ―なぜそういった過去の音楽にそこまで惹かれるのでしょうか? トム:僕たちは全員マイケル・ジャクソンのアルバムを聴いて育っているからね。ステージでも実際に「Human Nature」をカバーしているし、今でも『Thriller』は世界一素晴らしい作品だと思うよ。そういう幼少期の体験が大きな位置を占めているんじゃないかな。10代の時はちょっと離れて他の音楽を色々聴いていたけど、後でこちらのサウンドに戻ってくるんだ。僕らにとってノスタルジックなイメージもあるし、ハーモニー的にもグルーヴ的にも、僕たちの中核にこの手の音楽があると思う。自分たちの前の世代の音楽を今風に解釈したらどうなるか、その試みがとても面白いんだ。