日本の植民地支配は「現代人には関係ない」のか。エンタメ・美容・食だけじゃない、韓国の街と市民運動に学ぶこと
韓国は「エンタメしかない国」?
ーー3月に刊行した「大学生が推す 深掘りソウルガイド」(大月書店)も、グルメや買い物などの情報とともに、観光地と関連する植民地の歴史や社会問題も、わかりやすく解説されています。 朝倉:ガイドブックを作ったきっかけは、2022年秋にゼミのメンバーで韓国で合宿を開き、「タプサ」を行ったことでした。タプサ(踏査)とは、実際に出かけて調べることをいい、韓国では大学の行事に取り入れられるなど身近なものです。 たとえば、ソウルの繁華街・明洞(ミョンドン)の観光エリアから歩いてすぐのところには、2023年9月まで「日本軍『慰安婦』記憶の場」(※)があり、日本軍「慰安婦」制度のサバイバーたちが描いた絵やモニュメントなどが飾られていました。また、Nソウルタワーのある南山(ナムサン)から少し下ったところには植民地期に日本が「同化政策」のために建てた「朝鮮神宮」の跡地があります。 タプサを通じ、観光地として人気のエリア自体が、日本の植民地支配と深く関係のある場所だと実感し、観光を楽しむことと、日本との関係や植民地支配の歴史を感じたり考えたりすること、その両方ができるガイドブックを作りたいと思いました。 ※「記憶の場」・・・2023年9月、ソウル市によって「記憶の場」からモニュメントが撤去され、現在は「日本軍『慰安婦』記憶の場」という標石だけが残されている。撤去の理由は、モニュメントの設置に関わった美術家が、強制わいせつで有罪判決を受けたことだが、「記憶の場」は他の作家や市民らも参加して作ったことから、撤去措置は適切でなく、日本軍「慰安婦」問題の歴史を否定するものだとする反発も起きている。 ーー日本における韓国の一般的なイメージは、ドラマやKPOPなどの一部のエンタメや、美容・食などに偏っているように感じます。また、済州島(チェジュド)も、「リゾート地」や韓国ドラマの「聖地」として取り上げられることが多いですが、1948年に南北分断に反対し蜂起した島民らが、軍や警察に虐殺された「4・3事件」などの歴史には、あまり言及されません。 熊野:日本では韓国が「消費の対象」として思われる傾向が強いです。ガイドブックの中では、韓国に留学した後輩のゼミ生が、周りの人から「韓国はエンタメしかない国」というイメージを持たれており、「留学も遊べて楽しそうだね」というような反応が返ってきた、というエピソードも紹介しています。自分も韓国に留学していましたが、韓国が「学習の対象」として見られず、国の歴史や、それを継承し続けてきた市民活動、軍事政権下での民主化運動など学ぶことが多くあるという点が、日本ではあまり理解されていないと感じました。 ガイドブックでは、日本の植民地支配や強制動員、軍事独裁政権下であった様々な人権侵害の歴史を、二度と繰り返さないために記憶していこうとする韓国市民の姿勢を感じてもらえたら嬉しいです。 ーーガイドブックからは、歴史の記憶の継承には土地や場所が大きな役割を果たすということが伝わってきました。 熊野:そうだと思います。日本では今年はじめに、群馬県の県立公園「群馬の森」にある朝鮮人追悼碑が県の行政代執行で撤去される出来事がありました。二度と繰り返さないために歴史を記憶しようとする韓国の運動を知ることで、日本はそういう記憶の継承が蔑ろにされてはいないかと考え直すことができると思います。 李:ソウル市内には、碑やモニュメント、歴史に関する案内板や博物館などが多く、さまざまな「平和の少女像」もあります。今私たちが立っている場所に蓄積された歴史を知ることは、自分が生きている社会を学ぶことであり、歴史を自分の問題として受け止め、考えることのきっかけになると思います。