「北朝鮮より子供の数が少ない」「世界で最も子供を産まない国」韓国“超少子化地獄”のリアル《ソウルの出生率は0.55》
なぜ韓国の少子化は進行してしまったのか?
世界的な進化学者のチェ・ジェチョン梨花女子大学大学院教授は、「韓国で子供を産んだらバカに思われる」と述べて物議を醸した。だが実際、韓国社会のそこここに、賢い若者たちが出産を忌避する要因が数え切れないほど転がっている。 結婚情報会社の調査によると、韓国の若者の平均結婚費用は3億ウォン(約3300万円)近くで、このうち8割程度が新居のために使われる。これでは結婚段階からハードルが高い。ちなみに、会社員がソウルに25坪のマンションを購入するには、給料を一銭も使わずに36年間貯めなければならない計算だ(21年の市民団体の統計)。 子育てにおいても、世界一厳しい受験地獄と、法外な教育費が立ちはだかる。我が子を大学卒業させるまでには、前述の結婚費用と同等の3億ウォン程度が必要であり、韓国では「子供が2人以上いる家庭は金持ち」とも言われる。 韓国特有の「見栄の文化」も障壁となる。韓国には「下車感(ハチヤガム)」という流行語があるが、これは車から降りる瞬間に周囲の人から向けられる視線を意味する。安っぽい自家用車から降りる時に劣等感を感じたら「下車感が悪い」といい、高級車から降りる瞬間、周りの羨望の視線を感じたときは「下車感がいい」というのだ。私の親戚も最近、「娘が学校でいじけるのが耐えられない」と、乗用車を外国車に替えた。とにかく、結婚と子供にはお金がかかるのだ。
少子化が進行した分岐点は2015年だった
韓国の人口学者たちが「少子化への分岐点になった年」とする2015年は、若年層に「スプーン階級論」が広がった時期と合致する。「スプーン階級論」とは、韓国は表向きには身分の差別がなく、本人の努力などによって階層間の移動が自由な社会だが、実際には生まれる時に口にくわえて出てくるスプーン(親の経済力)によって階級が決まる「新世襲社会」であるという主張だ。 その階層は、富裕層の「金のスプーン」から「銀のスプーン」「銅のスプーン」「土のスプーン」にまで分類される。土のスプーンをくわえて生まれた最下層の若者は、いくら努力しても越えられない階層間の障壁が存在することに気づき、絶望感に苛(さいな)まれる。 また、いまの韓国の若者たちは、「七放世代」と言われる。恋愛・結婚・出産・マイホーム・人間関係・夢・就職の7つを放棄せざるを得ない世代という意味だ。もし自分たち夫婦の息子もしくは娘が「七放世代」になるとすれば、子供を作りたいと思うだろうか? 絶望的な状況の中、5年の任期のちょうど折り返し地点を迎えた尹錫悦(ユンソンニヨル)政権は、「超少子化との総力戦」に乗り出している。2024年6月、尹大統領が自ら「人口国家非常事態宣言」を出し、人口政策を総括する「人口戦略企画部」の新設と、大統領直属の「少子化対応首席室」の発足を決めた。出生率のV字回復のため、「仕事と家庭の両立」「養育」「住居」という3つの核心分野を選定。60以上の具体的な対策を立てて、2025年だけで20兆ウォン(約2兆2000億円)を支援するという計画だ。 だが、それでも、私は楽観的な気持ちになれない。韓国の超少子化は、競争至上主義社会の構造的問題が複雑に絡み合っているためだ。 いずれにせよ、「今日の韓国は明日の日本」だ。日本は「少子化で先を行く」韓国をよく研究し、教訓とすべきだろう。 ◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2025年の論点100 』に掲載されています。
金 敬哲/ノンフィクション出版
【関連記事】
- 「『日本のせいで発展が遅れた』という言い訳に似ている」格差社会の“絶望のシンボル”「スプーン階級論」が韓国で大ヒットする理由
- ありえない“コンクリの塊”、鳥の対策もおろそかに…韓国・死者179人の航空機事故をまねいた“危険すぎる管理実態”〈在韓記者が解説〉
- 「多くの専門家が唖然」30代男性の未婚率は50%超、出生率は0.75人で歴代最低…日本より深刻な“韓国の超少子化事情”
- 《出生率0.72の国の恋愛事情》韓国人がマッチングアプリで譲れない“露骨すぎる条件”とは? 男性は「経済力と外見」、女性は…
- 「地球人には解けない」超難問、人気講師は年収30億超え…熾烈すぎる韓国“受験戦争”のリアル「教育が貧困を抜け出す唯一の手段」