小型EV投入へ、市場注目「リーンモビリティ」誕生の舞台裏
車の新たな方向性示す
小型モビリティーのスタートアップ、リーンモビリティ(愛知県豊田市)が、小型電気自動車(EV)「Lean(リーン)3」を完成させ、早ければ2026年にも日本市場に投入する。会社を設立して2年足らず。谷中壮弘社長が大手自動車メーカーを退職し、仲間とともに立ち上げた会社は早くも市場関係者の耳目を集めている。(名古屋・星川博樹) 【写真】リーンモビリティの初号機「リーン3」 谷中社長は大学卒業後、大手自動車メーカーに就職。EVなどの開発に携わる中、「小型モビリティーの必要性を常に感じていた」という。環境への負荷を抑える自動車はハイブリッド車(HV)、水素エンジン、EVといった形となって進化を続けている。 しかし「日常生活の使い勝手を考えて自動車はどれだけ変化したのか」と谷中社長は疑問を投げかける。通勤や通学、買い物などで使用するモビリティーとは、現在の乗用車サイズでなくても良いのではという疑問だ。03年の東京モーターショーでトヨタ自動車が1人乗りモビリティー「PM」を、05年の日本国際博覧会(愛・地球博)で「i―unit(アイユニット)」を発表するに及んで「小型モビリティーの必要性が醸成されてきたと感じた」(谷中社長)。
「エアタクシー」柱に育成
小型モビリティーを作りたい、早く世の中に広めたい―。その思いを実現するために、どのように事を進めるかを考えた時「自動車会社の中にいるよりは自分で会社を立ち上げた方が近道と考えた」(同)。 立ち上げたリーンモビリティは事務所を借り、現在、エンジニアを中心に約50人が新車開発に携わる。「設計もデザイナーも大部屋で一緒になって仕事をしている。打ち合わせもすぐにできる」(同)。事務所には発泡スチロールで作製した模型があり、使い勝手も皆で実践し、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が交わされる。 完成したリーン3は「環境性能はもちろんのこと、安全性を重視した」(同)という自信作。1人乗りで軽量、衝突事故の際にも運転者の身を守るため「強固なキャビンで生存空間を確保することにこだわった」(同)。 25年夏には台湾市場に投入する。小型EVが普及しつつある同市場で勢いを付け「早い段階で日本市場に」と谷中社長は意気込む。ただ日本では、使い勝手がHVやガソリン車に及ばないことからまだまだEVは普及段階にない。「インフラも含め技術的に課題があるのは確か。ただEV先進地の米カリフォルニア州や中国、ノルウェーなどは政府の後押しが強力」(同)としてEV普及には公的支援が不可欠との見方も示す。 広く交通サービスという観点で捉えた時に自動車メーカーだけで将来像を示すことはできない。ITなどのシステムメーカーとの連携も欠かせない。「その中で私たちは小型モビリティーというハードウエアの原単位で社会に貢献したい」(同)と力を込める。 自動車産業が勃興して100年が過ぎた。「モビリティーの新たなベクトルを示し、次世代に渡すことが我々の役割」(同)と次の100年に視線を向ける。
日刊工業新聞