<東京モーターショー>日産とベンツにみる「自動運転」観の違い
「運転する喜び」か「労働」か
さて、運転の楽しみを優先するという日本独自の自動運転観があることを前提に、日産IDSコンセプトとメルセデス・ベンツF015のシートアレンジを見てみると大変興味深い。IDSコンセプトでは「トランスフォーム」機能を盛り込んで、マニュアル運転を際立たせようとしている。さらに電気自動車ならではのダイレクトな加速感も強く打ち出している。それは自動運転車であっても、あるいはだからこそ「Fun to Drive」を忘れていない。非常に重視しているということの訴求に他ならない。 一方メルセデス・ベンツF015は、自動運転の安楽性、あるいは運転という労働からの解放を積極的に表すために回転シートを使って居間的空間設計を訴求しようとしているのだ。
もう一点、これはどちらの車両にも搭載されている機能だが、車両外部に歩行者などの他の通行者と意思疎通するための外部モニター画面が装備されていることだ。例えば、一時停止したクルマの前を歩行者として横切る時、これまでで言えば、ドライバーとのアイコンタクトや、ジャスチャーなどによって、自分が譲られていることを確認して道路を横断できたわけだが、自動運転ではこれができなくなる。 目の前に停止した自動運転車が本当に自分を認識して譲ってくれるのか、唐突に走り出すのかが分からないのでは不安で横断できない。そのため、外部モニターによってクルマ自身が「お先にどうぞ」を表示する機能が必要になってくる。こういう社会的要素の作り込みは自動車メーカーならではだと感じた部分である。 両車の自動運転に対するビジョンは、少なくとも両国の顧客の要求を盛り込んだ形で表現されている。まだまだ海のものとも山のものともつかないレベル4の自動運転だが、それぞれのビジョンにみられるそうした違いはなかなかに面白いと思う。 (池田直渡・モータージャーナル)