<東京モーターショー>日産とベンツにみる「自動運転」観の違い
一方、ベンツの方はどうか? こちらは未来の豪華サルーンの思考スタディというべきモデルだ。日産ほどには精密なルートは描かれていない。「画餅」度はこちらの方がずっと高い。それでも、注意してみるとビジョンの方向性に日産と大きな違いがあることがわかる。それはシートのアレンジだ。F015は前席が回転し、電車のボックスシートの様に、向かい合って対面する形状にできる。
日本独特の「クルマ運転」観
日産IDSコンセプトとメルセデス・ベンツF015のシートアレンジの違いは、他国と違う日本の自動運転に対するユーザー感情が現れていて大変興味深い。 2014年から2015年にかけてボストン・コンサルティング・グループが日米で行った「自動運転車を購入したくない理由」の調査結果がある。それぞれトップ3を挙げると以下の様になっている。 《日本》 1位: 自動運転が安全に思えないから 45% 2位: 自分で運転するのが楽しいから 35% 3位: 自動車は常に自分でコントロールしたいから 31% 《米国》 1位: 自動車は常に自分でコントロールしたいから 60% 2位: 自動運転が安全に思えないから 57% 3位: 自動運転車がミスする可能性を避けたいから 46% これらを見ると、米国の場合、自動運転の安全性に対する疑いが強く、自動運転により否定的である。日本の場合も安全性に対する疑義はあるものの、米国に比べれば否定的な意見のパーセンテージはだいぶ下がる。電子制御技術に対する信頼の高さが根底にあるのだろう。 そして特筆すべきは米国の理由の全てが自動化に対する不信感に根ざしているのに対して、日本の場合系統の違う理由、「自分で運転するのが楽しいから」が2位に入ってくる。米国の場合7位である。普段自動運転の話をしていて感じることだが、日本の顧客は、自動運転によって運転する楽しみが奪われるという危機感が強い。米国では、運転は「労働」としての位置づけが高く、本当に安全であれば自動でも構わないと考えていることがデータから想像できる。しかも予想に反して、この傾向は欧州での調査でも同様だったという。運転そのものを楽しみにしている。あるいは運転の楽しみを奪われたくないという点を重視するのは日本独特の感覚だと言ってもいいだろう。 筆者はこのアンケート調査について、移動手段としてのクルマが必要ない都市部の傾向なのではないかと疑い、日本の回答者1583人の分布について尋ねてみたが、都市部と地方の差はないとのことだった。ボストン・コンサルティングでも同様の仮説を立て、むしろ都市部と地方を別集計して差を際立たせるつもりだったが、実際の集計では有意な差は認められなかったということだった。