田家秀樹が振り返る、宇多田ヒカル、BUMP OF CHICKENのデビュー・アルバム
弱者の反撃という意味の楽曲
くだらない唄 / BUMP OF CHICKEN BUMP OF CHICKENはヴォーカル、ギター・藤原基央さん、ギター・増川弘明さん、ベース・直井由文さん、ドラム・升秀夫さんですね。全員が千葉県佐倉市の育ち。同じ幼稚園、小学校中学校も同じだった。初めてのステージが中学の文化祭でそのときに「ツイスト・アンド・シャウト」を歌った。このへんがちょっと愛おしい感じがしますね。高校は別々で藤原さんは中退して上京して、その頃のことを歌ったのがこの歌ですね。大人になるということに対しての不安を情景感豊かに詩的に歌っている曲ですね。背広もネクタイも見たくないよという、この歌詞を聴いたときにちょっとキュンとしました。抱きしめたくなったという感じがありました。 そういう生活を前に震えている時期というのがあったんでしょうね。社会人でやっていけるんだろうか、これから社会人になるとか、社会人になったばかりの方とかいつか社会人になるとか思いながら俺社会人になれるかなと思ってらっしゃる方にとっては、この曲はあなたの歌ですね。そして、僕らの歌でもありました。背広もネクタイもやだよなと思いながら、未だにそういう生活をしておりますが。 BUMP OF CHICKENのデビューはインディーズだったんですね。『FLAME VEIN』もインディーズから出ているので、僕もこれは当時は聴いていないんです。ご多分に漏れず、僕はメジャーになってからなので、「天体観測」から。2001年以降ですね。これは余談ですが、初めて見たのが2001年の渋谷のAXなんですよ。それを観たときに本当によくて、ロビーで挨拶があって、僕はかなり大人でしたからなんて話していいからわからなくて、思わず藤原基央さんに「好きです」というふうに言ってしまいました(笑)。BUMP OF CHICKENの名前、弱者の反撃という意味があるんですけども、そういう曲をお届けします。「リトルブレイバー」。 リトルブレイバー / BUMP OF CHICKEN 田家:BUMP OF CHICKENのデビュー・アルバム『FLAME VEIN』の4曲目「リトルブレイバー」。小さな勇者ですね。守るべき人がいれば、僕らは時には勇者にもなれるんだ。さっきの「くだらない唄」の中の背広とネクタイを前に震えていた少年が少しずつ強くなっていく、強くなりたい、強くなろうとして自分に言い聞かせているような歌ですね。 歌詞の中に「とっておきの歌」というタイトルが出てましたが、それがアルバムの6曲目で、これは肯定的なとっても微笑ましいラブソングなんですね。僕らの日常が毎日の記念日でこれが一番素晴らしい瞬間なんだってことを歌っている歌です。BUMP OF CHICKENはインディーズで出たんですけど、さっきの「ガラスのブルース」がそういう日本語のコンテストに出るための歌で、いろいろなコンテストで賞をもらったりしていて。プロの世界に誘ったのがプロデューサーの木﨑賢治さんなんですよ。槇原さんとか、その前は沢田研二さんとか、この番組にも何度も来てくれていますけど、やっぱりそういう人がいたんだなと思います。僕なんかはそういうところへはなかなか足を運べないので、メジャーになってからこういう人たちが出ますということで知るのですが、一から見ていた人がいたから、こうやってデビューできるんですね。 BUMP OF CHICKENを聴いたときの大きな印象は、藤原さんの声ですね。こんなに劇的、悲劇的と言ってもいいかもしれないですね。血と涙が入り混じっている声と思ったんですね。しかも、内省的にいじらしくてかっこつけていなくて生々しくて詩的。当時はみんなアルバイトをしていて、アルバイトの合間を縫って合宿で3日間で録音をしたというアルバムなのですが、アルバムの最後はそんな彼らの決意のような歌が入っていました。 ナイフ / BUMP OF CHICKEN 再発されたときにはこの後にもう1曲入りましたけど、オリジナルはこの曲で最後ですね。心にナイフを隠し持つ。PROVE YOURSELF、お前自身を証明する。心に隠し持ったナイフが君自身を証明する。これから旅立とうとしているあなたに贈る歌ですね。CHICKENというのは臆病者の例えですね。弱者のロック。そう、弱者のロックということでパッと浮かぶのが、RADWIMPSですよ。いくじなし、臆病者という意味ですからね。RADWIMPSもデビューしてすぐ2回目のZepp YOKOHAMAを観たときに開演前、ちょっと早めに行ったら開演前に流れているBGMが全部BUMPだったんですよ。おーやっぱりと思った瞬間がありましたね。米津玄師さん、最近この話しを彼はしなくなりましたけど、彼がバンドを辞めて家でパソコンに向かってものを作り始めたときに投稿していたのはBUMP OF CHICKENの曲に絵をつけたものだったんですね。こうやって流れてんだなと思わせてくれた、そんな2組でもありましたね。言葉がリアルになって、なおかつ詩的。ポエジー、ファンタジーになっていると。BUMP OF CHICKENは文芸ロック、文学ロックとか言われましたけど、アルバムを出すごとにそこに作家性が加わってきていますね。これも付け加えると、2006年の「涙のふるさと」。あの曲のプロモーション・ビデオがこの間『ゴジラ-1.0』でアカデミー賞をとった山崎貴監督でしたからね。若い映画のクリエイター、映画監督にとても支持が多かったのがBUMP OF CHICKENでもありました。2000年代ロックの幕開けでしたね。 後半は宇多田ヒカルさんのアルバム『First Love』の聴き直しです。アルバム6曲目「time will tell」。